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アニバーサリー
ソファーに座ってノートPCで作業するヒル魔さんの隣、というか足元のラグにソファーを背にして座る僕。膝に乗せた雑誌をめくりながら出来るだけさりげなく聞いてみる。
「今、ヒル魔さん欲しいものってありますか?」
「予算は」
「えーっと、僕の出せる範囲で」
「どれも無理」
「そうですか・・・」
まあ予想はしてたけどさ・・・
少しの間、ヒル魔さんがキーボードを叩く音と僕が紙をめくる音だけが耳に届く。
雑誌を閉じて飲み物の用意をしようと顔をあげて、キーボードの音が聞こえない事に気付いた。斜め後ろで伸びをする気配に目を細めて立ち上がる。
「飲み物用意しますね」
そう言ってキッチンに向かおうとしたが、手をつかまれて動けなくなった。
首を軽く傾ける。
『なんですか?』
ヒル魔さんが自分の横を目で示す。
『隣に座れ』
なんだろうと思いつつソファーにポスンとおさまった。
「で?テメーは何が欲しいんだ?」
「はい?」
「新しい靴か?フライパンか?宿題は見てやるがテメーでやれよ」
「靴はまだはけますし、フライパンだって文句言ってるのヒル魔さんだし、宿題はもうすみました」
「宿題自力で終わらせた?こりゃ明日は雨だな」
「いやいやいや、突っ込むトコそこですか。そうじゃなくって。欲しいものは別にありませんよって言いたいだけですよ」
「ふーん」
あ、信じてない顔してる。
「んじゃ、さっきのはなんだ?」
さっき?
「俺に欲しいもの聞いたの忘れたか」
この鳥頭、と突かれる。
「聞いたのは『ヒル魔さん』の欲しいもので、『僕』のじゃないですよ」
「なんだ、おねだりでも聞けるかと思ったのに」
おねだり?!
これをふざけもせず真顔で言うんだから、ヒル魔さんって本当に読めない人だなぁ・・・
試しに言ってみよう。
「・・・ヒル魔さんの好きな物あげるから僕にもちょうだい 」
・・・・・・なにも顔そむけなくても。肩、震えてるよ。
「似合わないのは分かってますから、そんなに笑わないで下さい」
「笑ってねぇよ」
「口元押さえながら言われても説得力ありません」
それに目が笑ってる。
「そうじゃなくって。僕、ヒル魔さんからもらいすぎ」
「そうか?」
「そうですよ」
そりゃ僕のおこずかい少ないけど。
「ヒル魔さんちに来ると僕用の服とか増えてるし」
「着なきゃいいだろ」
「・・・好みの服は着てみたいじゃないですか」
またヒル魔さんのセンスが良いから野暮ったい僕でもそれなりに見えるし。
「嬉しいですよ。嬉しいですけどもらいっぱなしは心苦しいんです」
「俺が好きなんだったら黙ってもらってろ」
「好きだからもらいますけど黙れません」
嫌いだったら受け取りもしないと分かってるんだろうか、この人。
「そりゃ僕がヒル魔さんにあげられる物なんて限られてますけど、どうせなら喜ばれる物をあげたいから聞いてみたのに。もういいです」
立ち上がろうとしたのに腕をつかまれ、再びソファーに逆戻りした。
「俺はいいんだよ」
「何がですか」
「俺の方がもらいすぎてんだから、いいんだ」
「僕、何もあげてませんよ」
「もらってる」
静かに穏やかに笑うヒル魔さんなんて他の人は見たことないんだろうな。でも何かをあげた覚えなんて本当にないのに。
腕をつかんでいた手が放れて肩にまわる。引き寄せられて、温かい腕に納まった。
「物だけじゃないです。ヒル魔さんに出会えたからアメフトや友達や、大切なものが出来たんです」
「俺はきっかけであって全部テメーが自力で手に入れたんだ」
その言葉にふるふると首を振る。
「以前の僕じゃ無理でした。ヒル魔さんが変えてくれた僕だから」
目の前の自分より厚みのある体を抱きしめた。
「それに僕、ヒル魔さんまでもらっちゃって・・・ もらいすぎてます。でも返せって言われても返せない。だって一番大切なんです」
抱きしめて抱きしめ返される。
こんなに大切なものが手放せる訳がない。
「だからせめて物で何か返せたらって思ったのに」
少しの悔しいとガッカリと大部分のやっぱりに溜息が出た。
「もうあげられるものなんて1つしかないんですけど」
「しょうもないもんだったら突っ返すぞ」
口調はイジワルだけど目が優しい。大好き。
「僕をもらってください」
笑っていた目がまん丸になった。
「・・・もうもらったと思ってたんだが」
「いままでの僕は全部あげてます。でも明日の僕は今日とは違うから。明日も明後日も、これからの僕も全部ヒル魔さんにあげます。 ・・・もらってくれますか?」
うっとおしいって思われないか。それが不安で小さい声しか出ない。
「こんなん毎日もらってもなー」
うぅ、予想通りの返事だなぁ・・・
「お返しが大変じゃねーか」
「え、何いってるんですか、お返しにお返しもらったらもっとお返ししなきゃいけなくなっちゃいます、って!!」
あー危ない危ない。驚いて顔を上げたからヒル魔さんの顎に頭突きかますところだった。
僕の頭をギリギリかわしたヒル魔さんは、さっきのはずみで離れた僕の体を引き寄せてまた腕に包みこんだ。
「テメーがもらえるんなら安いもんだろ」
「安上がりなのはヒル魔さんですよ。いいんですか?」
僕のあげられる精一杯。でも喜んでもらえるなら僕も嬉しい。
「毎日プレゼント交換か。贅沢だな」
面白がる声に笑みが浮かぶ。
「ヒル魔さんと一緒にいられるなら毎日が記念日ですね」
Fin.
2008.
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