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      それはとても幸せな 
       
       
 
並盛中学校の応接室で雲雀の仕事終わりを待つソファーに座ってディーノの姿はいつものこと。 
それは今日も変わりない。 
違うことと言えば、その表情。 
いつもなら楽しげに細められた目は雲雀に注がれていた。 
今日のディーノも嬉しげに笑っている。 
しかし、目線はぼんやりと宙に向けられ、突然始まる思い出し笑いに雲雀はドン引いていた。 
「気持ち悪いよ、そのしまりのない顔」 
「だってさー、嬉しいじゃねーか」 
ウヘヘとしか言い様のない口元は緩みっぱなしだ。 
キツキツだったディーノのスケジュールにポンッと出来た1週間の空白。 
驚くディーノに日本行きの航空券が差し出された。 
『いつも頑張ってくれてるボスに俺らからのプレゼントですよ』 
下手なウインクは誰がしたんだったか。 
滲む涙を堪えるために目をつぶってしまったので覚えていないのが悔やまれる。 
「俺はなんて幸せなボスなんだ…」 
「さっきから何回も聞いてる」 
「何度でも言いたいんだって!」 
ファミリーのボスがファミリーのために働くのは当たり前のことだから、仕事が忙しいのはディーノにとって苦でもなんでもない。 
ただ、雲雀恭弥という恋人が出来て、ほんの少し自分の自由になる時間が欲しいと思うようにはなった。 
ボンゴレ十代目候補にして弟弟子にあたるツナ絡みで来日の回数は増えたし、今でもディーノは精一杯の時間を雲雀のために割いている。 
しかしそれは所詮「仕事」の合間を縫って作った時間に過ぎず、「雲雀に会うため」に来日したことは一度もなかった。 
けれど今回は違う。 
もちろんこの来日にも数名の側近が付いて来ているし、常に本国と連絡は取れるようにはなっている。 
それでも、それでも今回は全てが「雲雀のために使っていい時間」なのだ。 
時間を理由に切り上げるたび言っていた「今日はここまで」も今回は出番がないだろう。 
いつも手合わせを楽しみにしている雲雀の喜ぶ様子を思うだけでディーノも嬉しくなってしまう。 
それに、なんとなくファミリーに二人を認めてもらえたみたいだなんて言うと笑われるだろうか。 
別に表立って反対されたわけではないが、ディーノ自身がファミリーに申し訳なさを感じていたことは否めない。 
それが今回のプレゼントで背中を押してもらえたようで…。 
「幸せだなぁ〜」 
溢れる気持ちを抑えるなんて出来やしなくて、そのたびわき出る思いがディーノの口からこぼれてしまう。 
その様子を目にした雲雀からは聞き飽きたと言わんばかりのため息がこぼれていた。 
「ボスの日のプレゼント、ね」 
「元々はアメリカで始まったもんだけどな」 
ボスを労いプレゼントを贈る日とされる「ボスの日」。 
日本でのかなり認知度は低いが、男性向けの服飾雑貨系の業界は記念日商法で購入機会を増やそうとアピールを始めている。 
「こじつけもいいところじゃない」 
「気持ちが嬉しいだって」 
確かにタイミングは偶然だろうから後付けと言えなくはないが、向けられた気持ちディーノは大切にしたいのだ。 
イタリアのマフィアと日本の中学校のこれまた一部でしかない(はずの)風紀委員を比べるのもどうかと思うが、ディーノも雲雀も「組織のトップ」であることに違いはない。 
上に立つ者として、部下の心遣いを嬉しく感じるくらいは同じはずとディーノは思う、いや願っていた。 
しかし、やはり雲雀は色々と規格違いな人間だったらしい。 
仕事が終わったのか、握っていたペンを机に置き、椅子の背にもたれた雲雀の唇がうっすらと笑みを形づくる。 
ディーノにとって雲雀の笑顔は(微妙な場合が多々あったとしても)幸せの形だ。 
が、この笑みにはディーノのアラートセンサーが鳴った。 
「な、なんだよ?」 
やや身を引きながらディーノが問うと、雲雀から思いがけない言葉が飛び出た。 
「あなた、気づいてないんだ」 
……雲雀が何を言っているのかディーノには全く分からなかった。 
いやいや、雲雀の発言がすぐさま理解出来たことのほうが少ないと思い直す。 
出会ってから今まで時間を重ねて思い知ったのは「雲雀恭弥」という人間が色々と、そう色々なコトが規格外だと言うことではなかったか。 
だとしても、だ。 
「……何を?」 
気づいたらソファーから身を起こし、前のめりになってしまっていた。 
おそらくディーノの顔にはたくさんの疑問符が貼りついていたに違いない。 
雲雀の表情がただ笑うというよりほんの少し憐れみの色まで浮かべていることもディーノの困惑に拍車をかける。 
軽く首を傾けてこちらを窺う仕草はディーノの目には愛らしく映っている、が。 
ディーノの「何がなんだか分かりません」との問いを受けた雲雀の言葉は全く可愛くないものだった。 
「嫌われてるんだよね?」 
 
 
 
『ちょっと待った!』 
そう声を張り上げかけたが、ディーノはグッとのどを締めた。 
ここで感情に任せて詰め寄っても堂々巡りになるに違いない。 
軽く目をつぶり、ディーノはゆっくりと息を吐いた。 
雲雀の思考回路は複雑怪奇にみられがちだが、その根底が他人とは大きく異なっているだけで意外と単純にできていることをディーノは知っている。 
例えそれが突飛な発言に聞こえたとしても、雲雀の中ではきちんとした根拠から導き出された答えなのだ。 
(考えろ、何が恭弥にこう言わせた?) 
そもそも普段の雲雀はディーノの部下達に対して無関心だ。 
数が多ければ不快感を表すこともあるが、基本話すのはディーノに対してなのでやり取り自体が少ない。 
こんなふうに雲雀から話題を振られることも希少だし、部下達について話題に上るのも初めてのことではないだろうか。 
その上、内容が「ディーノと部下達とのコミュニケーションについて」なんて驚き以外の何物でもない。 
きっかけがあったはずだ。 
雲雀が口にする気になるだけのきっかけが。 
(思い出せ、何が恭弥の気を引いた?) 
会いに行けると電話した時は、急なことに驚いた雰囲気はあったがそれだけだし、応接室に訪ねた時も「入室時は静かに」と睨まれたが、それもいつものやりとりのうちだ。 
雲雀が書類をまとめるまで待つのも、その間にディーノが最近の出来事を話し、たまに雲雀が相づちを返すのも…。 
(あれ、そういえば) 
 
 
『仕事が忙しかったんじゃないの?』 
ディーノの話が一区切りついた時に雲雀がさらりと聞いてきた。 
何気なくされたような問いかけに答えようとして、ディーノはあることを思い出した。 
それは来日の連絡を入れる数日前、「忙しくて会いに行けない」と書いたメール。 
落ちるように眠りにつく直前に打ったメールを消さずに送信してしまったのだ。 
翌晩、履歴を確認するまでそのことに気づいていなかったディーノは慌てて謝罪のメールを送ったが、どちらのメールにも雲雀からの返信はなかった。 
内容が愚痴っぽく恥ずかしい自覚があったし、スルーしてくれたのだとばかり思っていたのに。 
雲雀がメールを気にしてくれていたことも、その口調に気遣わしげな響きがあったことも、嬉しくて嬉しくて。 
気づいたらディーノは椅子に座ったままの雲雀を抱き締めていた。 
暑苦しいと突っ張ってくる腕も本気じゃなくて、沸き上がる愛しさに胸が締め付けられる。 
抱えられた雲雀の頭がちょうどディーノの胸元に当たり、艶やかな髪がさらさらと揺れている。 
改めてこの時間をプレゼントしてくれた部下達に感謝しつつ、ディーノは腕の中に収まってくれている恋人に「ボスの日」の説明をしたのだが。 
 
 
 
(……え、これはひょっとして…?そんなまさか…、いやでもこれは……、でもなぁ……) 
仮定と否定がディーノの頭の中に浮かんでは消え、消えては浮かぶ。 
すっかり黙り込んでしまっていたディーノがうつむいていた顔を上げると、雲雀はジッとこちらを見ている。 
「恭弥にちょっと確認したいんだけど」 
「言えば?」 
言い方はそっけないが、その切れ長の目にほんの少しの心配が浮かんでいるように見えるのはディーノの自惚れだろうか。 
「……もしかしてだけど、俺の心配してくれてる?」 
ディーノが単純に厚意からと受けとめていた『プレゼント』だったが、雲雀が由来の意味を重く受けとめたのだとしたら…。 
「……群れをまとめられてないなら何とかすべきじゃないの」 
「っっっ!!!」 
雲雀の言葉と仕草に胸を撃ち抜かれたディーノの顔が一気に赤く染まっていく。 
(ちょっっ、これ可愛すぎっっっ!!!) 
そっと伏せられた目元とか、さらりと揺れた髪から覗いたほんのり赤い耳とか、反則にも程がある。 
逸る気持ちを抑えながら立ち上がり、雲雀の後ろに回ったディーノはジッとしたままの体を抱きしめた。 
(…どうしよう。俺、嬉しくて破裂しそう) 
好かれているという自信はあっても、普段の雲雀からはそれらしい言葉などは滅多に出ない。 
だから、こうしてたまに(無自覚のようだが)態度で示されると、その可愛らしさは悶絶レベルとなってディーノを襲うのだ。 
(あー、お持ち帰りしてぇー……) 
本当は今すぐホテルへ連れて行ってしまいたい。 
けれど黒髪越しに見えるのは、机に広げられた書きかけの書類とペンを握りしめている指。 
背中も肩もカッチリ固まっているのが分かる。 
まだまだこんな触れあいには慣れていない雲雀のために、急がないと決めたディーノだ。 
ディーノはグッと我慢した。 
(いつまでもつかは自信ねぇけど……) 
グラグラ揺れる欲望を抑え、とりあえず今は腕の中の恋人を安心させることが最優先とディーノは己を奮い立たせる。 
「…心配させちまってごめんな、恭弥」 
「心配なんてしてない」 
「うん、だったらありがとな」 
「意味が分からない」 
「俺が分かってるから大丈夫」 
「…もういい」 
諦めたような呟きが聞こえたと同時に肩の力も抜けたようで。 
雲雀が後ろにもたれるとギシリと椅子の背が鳴った。 
より近くなった体温にディーノの顔がほころびる。 
「そりゃ俺だって自分を完璧なボスだなんて思っちゃいねーさ」 
ファミリーの皆には、子供のころを含めディーノの至らなさで色々苦労をかけてきた自覚はある。 
今だって、こうして雲雀との関係で気を使わせていることに申し訳なさを感じないと言えば嘘になる。 
それでもディーノが「俺が嫌いか?」と聞いたら怒られて、その後泣かれそうだし、「好かれている」と胸を張って言いきれるだけの信頼関係を築いてきたつもりのディーノだ。 
「それに嫌われてたら俺は今ここに来てないとは思わねぇ?」 
休暇じゃなくて仕事の追加なら嫌われてると思うかもなとディーノは笑ってみせた。 
心配なんてしなくて大丈夫だと伝えたくて、ディーノは明るく問いかけた。 
問われた雲雀は軽く下を向いてしばし考え込み、再び顔を上げたが顔は前を向いたままだった。 
「でも普段の関係が円滑じゃないからこそ『ボスの日のプレゼント』ってことはない?」 
「えぇー……、そんなこと無いって言ってるじゃん」 
ディーノを見ずに返された問いで、ディーノはしおしおにしぼみそうになる。 
「恭弥ぁ、確かにあいつらは『ボスの日のプレゼント』って言ったけど、恭弥だって言ったじゃん。こじつけだって。それに、俺よりあいつらのことを知ってるって恭弥本気で言えるのか?」 
「……そうは言ってない」 
お気に入りの黒髪に頬擦りしながらディーノはいい募るが、雲雀も意見を曲げる気はないらしい。 
雲雀がとてもしっかりした自己を持っていることは理解しているつもりのディーノだが、それにしてもこの件に関しての雲雀は頑なすぎに思えて仕方がない。 
「恭弥の気持ちは嬉しいよ?でもさ、自分のファミリーを疑われてるみたいで、正直ちょっと辛いなー」 
ディーノの言葉に振り返ろうとした雲雀を前で交差させた腕に力を入れることで留めた。 
冗談っぽく言ったけれど、自分が笑えていないのはディーノが一番分かっている。 
「なぁ、教えて?恭弥」 
こんなに恭弥を心配させる理由って何? 
ディーノの小さな囁きに雲雀の肩がピクリと跳ねた。 
「恭弥?」 
「……思いっきりやれって」 
 
 
 
その時を思い出すようにポツリポツリと雲雀が言葉にしていく。 
「あのヒゲメガネ、いつも『顔は勘弁してやってくれ』とか、『いつまでやってんだ、そろそろ切り上げろ』とかうるさいことばっかり言ってたのに」 
『今回は何したって俺らは口出ししねーから、恭弥の気がすむまでボスをぶちかましてくれてかまわねーぜ。思いっきり咬み殺してやんな!』 
「……いつ?」 
「あなたが電話で席を外した時」 
周りは周りで一緒に「そうだそうだ」と調子をあわせていたらしい。 
「チッ、あいつら……」 
その時の様子が目に浮かぶようだ。とてもイイ笑顔をしていたに違いない。 
「変だな、とは思ったよ」 
けど、あなたを咬み殺せることに比べたらどうでもいいことだからすぐに忘れた、とキッパリ言われたら「そっか……」としかディーノには言いようがないのがもの悲しい。しかし。 
「本当に忘れてたんだ。でも…」 
「恭弥?」 
言い淀んだ雲雀に、どうしたのかと様子を伺おうとディーノは顔を傾ける。 
すると、覗きこまれまいとうつむいた雲雀の耳がさっきよりさらに赤くなっているのが見えてしまい、ふくれあがった愛しさにディーノは息が止まりそうになった。 
「ちょっ、離して!痛いっ」 
「……いやいや、こんなの離すなんて絶対無理だって」 
雲雀から抗議されるも離してやれるはずがない。 
つまり、ロマーリオ達が「ディーノを咬み殺せ」と言った原因がディーノと部下達の不仲にあるとの思いこみから、雲雀は「嫌われてるのでは?」と言い出したのだ。 
やはり雲雀の発言にはちゃんとした原因と理由が、それもなんとも可愛らしい杞憂によるものが存在した。 
これで嬉しがるなと言われても無理に決まっているではないか。 
しばらくもだえた雲雀だったが、ディーノが拘束を解く気がないと悟ると、ため息とともに体の力を抜いた。 
そしてディーノが腕をゆるめると、もぞもぞとした身動ぎのあとに改めて雲雀がディーノへともたれてきた。 
「……恭弥にメールした時な、」 
ディーノもあの時を思い出しながらゆっくりと語る。 
「忙しかったのはホントだけど、それよりちょっと嫌な仕事が続いてたのがキツくてさ」 
恭弥の神経がこちらに向けられているのを感じつつディーノが言葉を続ける。 
「ファミリーのボスがキツいなんて言えねえ。言うつもりもねえ。でもな、分かっちまううんだよあいつらには」 
それは小さい頃からディーノの側にいてくれたからこそのものだ。 
けれど、だからこそディーノはさらにキツく感じていた。 
「こんな俺なんて見せられねえ。見させねえ。けど見られちまってる。それが分かってるのに見せないように振る舞うのはやめられねえ」 
何よりキツかったのは、部下達もディーノの虚勢に気づかぬフリをするしかなかったこと。 
「ホント、俺ってまだまだなんだって思っちまってた。10年経っても気を使わせてばかりの自分が情けなくって」 
そんな時に送ってしまったのがあのメールだった。 
しかし、キツかった仕事にも片がつき、一息ついたちょうどその時、差し出された休暇と航空券。 
「恭弥に会って元気になってこいって。見抜かれすぎだよなー、俺って。でも実際そうだからなんも言えねえし!」 
「それって僕はご褒美に用意されたってこと?」 
「お前が用意されてくれる玉かよ」 
不満げな声に苦笑で返す。 
「でも俺が恭弥に会って元気になっちまってるのはホントだろ?」 
「確かにうっとうしいくらい元気だね」 
「うっとうしいはないだろー」 
「なら暑苦しい」 
「変わんねーよ!可愛くない口をきく奴はこうだ!」 
やれやれと言いたげな雲雀をディーノは左右にぐらぐらと揺らす。 
涼しい顔で、けれどされるがままに揺れる雲雀にディーノは口元が緩んで仕方ない。 
「あいつらは俺に元気になれってここに送り出してくれたんだ。俺の元気の元は恭弥だし、恭弥が嬉しそうにしてると俺も嬉しい。そんでもって恭弥のお楽しみは俺とのバトルだろ?…ほら、繋がった」 
種明かしをするように握っていた手をパッと開けば、下からペシッとはたかれた。 
「要するに僕を煽ったのもあなたのため?」 
「の、はずだぜ?まぁ多分に俺の希望が入った推測だけどな」 
ディーノが緩めた腕から抜け出した雲雀が上半身をひねり見上げてくる。 
「そこで言い切らないからあなたは群れに気づかわれるんだよ」 
「違いない」 
ヘラリと笑うと睨まれた。 
ムッとした表情まで可愛らしく感じるのは、ディーノの贔屓目ではないはずた。 
ディーノは目を細めて愛しい人に語りかける。 
「気づかわれてるのは確かだな。でも、嫌われてるとかは無いって言いきれる。そこを折れたら俺はボスの看板下ろさなきゃなんないな」 
「……なら下ろさなくていいんじゃないの」 
再び前を向いてしまった雲雀だったが、もれた呟きはディーノの胸に温かく染み込んで広がっていく。 
「恭弥にそう言ってもらえたら安心だな!」 
雲雀の落ち着いた声音にどうやら杞憂も解けたようだとディーノは胸を撫で下ろす。 
と、ディーノの喉元でチャキリと物騒な音が鳴った。 
「それで、あなたは僕ってご褒美で元気になったんだよね。ならそろそろ僕もご褒美をもらわないと不公平だと思わない?」 
使い込まれた雲雀のトンファーがディーノの喉に突きつけられている。 
「仕事はいいのか?」 
「あなたと一緒にしないでくれる。いま一週間分片付けたところだよ」 
いつもより多いなと感じていた書類は、いつの間にか机のすみに綺麗に積み上げられていた。 
「さあ時間はたっぷりあるんだろ?」 
咬み殺してあげるよキラキラと(ディーノ以外が見ればギラギラと)した瞳がディーノを射抜く。 
愛らしい顔と共に、ディーノだけが引き出せる雲雀の顔だ。 
「咬み殺されてはやれないけど、恭弥の気のすむまで付き合ってやるよ」 
満足そうに笑う雲雀にディーノも笑い返す。 
善は急げとばかりに立ち上がり颯爽と部屋を出ていく後ろ姿にディーノの笑みが苦笑に変わる。 
部屋から出ていった雲雀の後を追いかけるように歩いていると、途中でロマーリオが待っていた。 
「移動するから誰か先に走らせてくれ」 
「前に行った林でいいならもう手配出来てます」 
「ホントにお前らは出来た部下だよ」 
肩をすくめたロマーリオが「そりゃどうも」とおどけてみせた。 
頼りになるファミリーと愛し子。自分は恵まれていると心の底から思わずにいられない。 
さっさと来いと投げつけられたトンファーをかわしながら、「俺ってホントに幸せなボスだなぁ」と呟いたディーノだった。 
 
 
 
 
 
 
       
       
       
                                         Fin. 
       
                                      2013. 12. 1   
       
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