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      Call 
       
       
       
      「ダメだ、ヒル魔さん全然繋がんない」 
何度かけても聞こえるのは繰り返されるアナウンス。 
「相談しようと思ったのに…」 
全日本選抜。降って湧いた話はセナには大きすぎて、最初は戸惑いが先に立った。でも、協会長の言葉に納得もした。それだけの覚悟が必要なのだと。 
モン太と二人、真っ先に思い浮かべたのは王城の進さん。話の前に東西対決が始まっちゃってビックリしたけど。 
何度突っ込んでも倒せなかった進さんを1ヤードも押し切った大和さん。僕らが何人もの人数でやっと止めた大和さんを一度で止めた進さん。やっぱり凄い… 
東西に別れて選手を集めようと帝黒の二人と約束をして、改めて責任の重大さに体が震えが走る。それにしても… 
「阿含さんかぁ…」 
「なんつって声かけたりゃいいんだ…」 
深いため息はセナとモン太の両方から出た。 
『僕たちと一緒に全日本に入った試合してくれませんか!』 
…………… 
「鉄アレイが飛んでくるに10点」 
「ぶん投げられるに10点」 
……………はぁ 
阿含の色よい返事なんて想像もつかない。 
確かに高校アメフトにおいて彼の人の実力が群を抜いているのは分かる。しかしだ。 
『はたしてあの人と同じチームでやっていけるのか』 
大問題である。 
いっそ進に丸投げできないだろうか………うーん、そもそも『話を聞いてもらえるか』からして無理っぽいし。話し合いからどんな事態に展開するかも分からない二人だ。 
まあ進からセナとモン太に代わったとて、即行ひねりつぶされて終わりそうだが。 
「ヒル魔さんならどうするかな…」 
「でもあの二人の話し合いってのも怖かねぇか?」 
ヒル魔得意の挑発に、簡単に乗る阿含ではないだろうが、切り捨てて終わりにするとも思えない。非常に危険な賭けっぼい。 
「ははは、同席はしたくないかなーなんて」 
乾いた笑いがため息に変わる。 
なんとしてもチームに必要な人材だが、攻略は超難関。方法もすぐには思いつきそうになかった。 
「それにしても、すげぇなセナ」 
気分を切り替えたのか、モン太が感心したと何度も頷く。 
「何が?」 
自分が何かしたかと首を捻るが、思い当たりがまったくない。 
「電話だよ、電話。俺、ヒル魔さんに直接電話なんてかけられねーもんな。だってなんか怖ぇーじゃん」 
「そうかなー?」 
だいたい電話というものは顔が見えないし、機械を通した声はより感情も読めなくなる。相手の状況もわからないから、今かけてもいいものか悩む事もある。 
「買い出し行った時にさ、メモ忘れて電話したら通話中に切られちまってよ。まもりさんからすぐにメールがきたから買えたけど」 
それ以来、用事は基本会った時に。急がないならメールで。どうしても、どーしても今すぐって時だけ電話するというモン太に、自分はどうだったかと振り返るセナ。 
「ほとんど電話だなぁ」 
「怒られねぇ?」 
「むしろメールのが怒られるんだ」 
「なんで??」 
『意味の分かるモンが書けるまで、テメーはメール禁止』 
初めて送ったメールに対する返信は手厳しかった。 
「どう書いたらいいのかわかんなくって、思い付いたままに書いたらそんな返事がきちゃって。要点まとめろって難しくない?」 
「俺も作文、苦手MAX!気持ち分かるぜ〜」 
それ以来、ヒル魔さんへの連絡はもっぱら電話。だから凄いと言われるとちょっと微妙。 
「でもヒル魔さん、優しいよね」 
「へ?」 
意外なセリフを聞いたとばかりにモン太の目が丸くなった。 
「だって怒らなかったよ、ヒル魔さん」 
めちゃめちゃなメールを送ったときも、まとまらない話に電話口で焦ってるときも、『次からはこうしろ』と言われても怒られはしなかった。 
      「そーいや俺も怒られてはいねーな。『次やったら分かってんな』って脅されたけどよ」 
「同じ失敗には容赦しない人だから…」 
それこそ怒声と銃弾が飛んでくるから、お使いひとつでも気が抜けない。 
「でもさ、任されるってさ、嬉しいよね」 
「おう、信頼には応えなきゃな」 
      たくさんの事をヒル魔さん一人に頼ってる自覚は僕らにもある。だから小さな事でも、任されると嬉しい。(僕らにできることなんてたかが知れてるんだけど) 
ヒル魔さんのお使いとはスケールが違いすぎるけど、選抜メンバーのスカウトも任されたからにはやりとげたい。しかし、どうしても不安は拭えない。候補ならいくらでも思い付くが、それを絞り込むのが難しい。 
ヒル魔さんに相談してもよいかどうかも本当は分からない。協会長から任されたのはセナとモン太であって、ヒル魔ではないから。それに、相談するという言い方も違う気がする。 
多分、誰を選べばとは聞かない。どうやってと聞いても答えは返ってこないだろう。 
だから、答えは求めない。 
ただ『そんなことテメーで考えろ』と言って欲しい。 
甘えてるなと思うけど、それで僕は頑張れる気がする。 
だから、 
      「どこいるんだろう…」 
 
 
 
今、あなたの声が聞きたい。 
 
 
       
 
       
       
       
                                         Fin. 
       
                                      2008.
      11.20   
       
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