頬にキス





「テメー、俺のこと好きだろ」
ニヤリと笑った口元から覗く鋭い犬歯。
熱くなっていく頬を自覚しながらも
顔を逸らすこともできない。
答えなんか分かってるって顔で
見下ろす目線に悔しくなって、
襟元に手を伸ばし
引き寄せた頬にキスをした。
少し見開かれた目が驚いていて
嬉しくなって笑ったら、
「テメーにしちゃ上出来な返事だな」って
唇に噛み付くようにキスを返された。



最初の印象は「コワイ人」だった。
それも今までの人生で1番じゃないかってくらいの。
脅されてパシらされるのには慣れていたけど、
銃で脅されたのはさすがに初めてだったし。
怖かった。
逃げたかった。
でも、その逃げ足の速さに目をつけた人が
僕を放してくれるはずが無かった。

使ったことも無い筋肉が悲鳴を上げる。
できっこないような事を要求される。
でも。
仲間が増えて、
目指す人達が現れて、
いつの間にか逃げようなんて考えなくなっていた。
一緒に戦う仲間と
乗り越えなければならない対戦者たちに
立ち向かう事を自ら望むようになった。

僕が変わったのは。
変わることが出来たのは。
僕を見つけ、
僕を追いたて、
いつも見守ってくれたあの人の・・・

僕が何かに気付くたびに
僕の中のあの人も変わっていく。
人に厳しいだけじゃなく、自分にも厳しい。
能力だけじゃなく、ちゃんとその人を見てくれている。
・・・僕を見てくれている。

徐々に大きくなっていく胸の中の存在に
怖くなって、でもどうしようもなくって。

そんな僕のモヤモヤを吹き飛ばしてくれたのは
やっぱりヒル魔さんだった。
からかうような笑顔と口調。
拒否権はないとばかりに
突きつけられた言葉。
ためらう僕を力強く引き寄せてくれる。
だから。



『大好きよセナ』
左の頬にキス。
『大好きだよセナ』
右の頬にキス。
『セナもいつか家族になりたいと思った人に
キスしてあげようね』
大きくなるにつれて
たくさんの情報を受け取るうちに、
両親の言葉はおままごとの様だと
思うようにはなっていたけれど。

ヒル魔さんとずっと一緒にいたいと。
同性だとか迷う以上に。
笑った瞳の奥に
僕と同じ熱さがあると。
そう思ったから。

頬にキス。
僕からの精一杯。
好きです、ヒル魔さん。
受け取ってください、
僕のプロポーズ・・・



                                   Fin.

                                2007. 8.26  



SSじゃなくって、・・・ポエムだよね?
嫁にプロポーズされてます旦那様・・・ 負けてるよ!!(笑)
駅前でパパに飛びついてチューしてる男の子見て、
セナがこんな家庭に育ってたらどうなるかしら?って思ったのが
こんな話になっちゃって。 あれー???