4 〜 柔らかそうな唇
最近になってやっと付いてきた上半身の筋肉。 ただし、うっすらとって程度だが。 身体の線が多少引き締まったように見えるのは気のせいか。 足以外は貧弱そのものだった事を思えば、たいした進歩かもしれない。 光速のランニングバック。 アイシールド21。 俺が仕立てたヒーロー。 その言わば幻の危うさに危機感は常にあった。 自らの仕掛けだからこそ。 しかし、それは嬉しい誤算に払拭された。 日を追う毎にヒーローの張りぼてに中身が満ちていく。 その成長ぶりにはヒル魔でさえ目をみはるものがあった。 我ながら掘り出し物を見つけたと、注目される度にくすぐられる優越感。 しかし、ヒル魔の中でそれとは別の欲が沸き上がる。 長年無自覚に鍛え上げた足から生まれる光速の走り。 だが触れれば切れそうなその速さに反したセナの柔らかさをヒル魔は知っている。 びくつくけれど、逃げなくなり。 おどおどした態度が減り、笑顔を見せるようになり。 ヒル魔に向けられる視線が柔らかくなった。 感じた事のない空気はむず痒さを生んだが、煩わしく感じないのがまたくすぐったくて。 ヒル魔にからかわれて怒って拗ねて、子供のように染まった頬。 伸ばした指の先に感じたまろみ。 思わず抱き寄せていた自分に驚いた。 もっと触れたい。 手の届く所すべてに。 自覚した独占欲。 腕の中が静かなのは動けないのか、動かないのか。 どちらにせよ結果は変わらない。 もう逃がす事などありえないのだから。 そっと背に回った柔らかい手。 了解だと受け止めて顔を上げさせた。 1番柔らかそうな場所を感じるために。 |
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≫ 5 〜 その、心 | |
『君に触れたい 5題』 SCHALK.様より | |
H20.8.1〜H21.3.31 まで拍手に使用![]() |