紫外線 (3代目拍手)



「向こうの日差しは結構キツイんだ」
「ふーん」
「目が淡い色だと余計傷めやすい」
「そう」
「だからグラサンは夏に限らず割とつける」
「それで?」
「…えぇーっと」
ドアのすぐ内側に立つイタリア人は、斜め上に目線を逸らす。
「ここは日本。季節は冬。いるのは室内」
「はい…」
今度はうなだれるが、そもそも最初から目線は合っていない。
「そして、僕は人の目を見て話せない人間と同席はしたくない」
サングラスをしたまま入室し、今も外そうとしない相手に着席の許可は必要ない。
「…でも、コレ、俺に似合うだろ?」
「話をごまかす人間も嫌いだよ」
執務机にはまだ目を通していない日誌が数冊残っている。
だが終わらせたい気持ちよりムカつきのほうが大きく、手をつける気にならない。
昼過ぎという早い時間の訪問に喜んだのもつかの間。
「そんなのつけたまま手合わせする気?馬鹿にするのもいい加減にしなよ」
見えなくはないだろうが、僕相手にそれで十分と思うなんてムカつかずにいられようか。
「馬鹿にする気はないんだって!いやむしろこっちが馬鹿にされそうっつーか…」
なにをもって馬鹿とするかは人それぞれだが。
「予想で人を決めつける貴方は間違いなく馬鹿だね」
「うぅ、すみません…」
ようやくサングラスに指をかける。
「笑うなよ?」
念押しに何をそこまでと呆れるも、目にしたそれになるほどと頷いた。
いつもと同じキラッキラな髪。
いつもより少し焼けた顔。
いつもにないくすんだ飴色の目。
「ワオ、紫外線をなめた罰だね」
これで笑うなとは難しいことを言う。
唇が笑いに歪む。
「やっぱり笑われた〜」
「覚悟の上でしょ」
子供っぽい泣き方が似合う人だから、そういうトコロが無駄に大人だと感じる。
けれど、目の前のコレは確かに「お馬鹿な子供」そのものだった。
「仕方のない人だね。でも貴方タイミングがいいよ、良い物あげる」
椅子から立ち上がると、背中から「えっ、恭弥が俺にっっ」と声がかかる。
部屋の隅に置いてあった没収品を入れた箱に手を突っ込む。
探り当てた感触に引っ張り出すと、目当ての物が手の中にあった。
ドアの方を見ると、いかにも「期待してます」的なキラッキラ笑顔がこちらを見ている。
…本当にお馬鹿さんな人だ。
掴んだ物を、はい、と手渡した。
渡された相手が、僕の顔と自分の手に握らされた物を交互に見る。
「僕を闇討ちしようとした奴らからの没収品だよ。これを被って昼寝でもしたらいい」
「…すっごい蒸れそう」
「我慢しなよ」
自業自得でしょ?
「優しい僕に感謝するんだね」
「すっげーウレシーです」
「棒読み」
「ありがたく使わせて頂きます」
キラッキラな頭がうなだれる。
それが少し可愛いと思うなんて、僕もほだされたものだ。
毛糸で編まれた覆面マスク。
本当に被るかどうかは彼の気持ち次第だけど。
「その日焼けがマシになったらデートしてあげてもいいよ」
ガバッと上がった顔は、それは見事な逆パンダ。
こらえきれずに吹き出した。



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