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      注意! 雲雀が(一応)女の子設定です。駄目な方はスルーでお願いします (_
      _) 
 
 
 
       
      X線(3代目拍手)
 
       
 
 
手合わせ後に並盛でのディーノの定宿となったホテルの部屋に来る習慣がついてしまった。雲雀の手当が目的である。 
別にいまさら傷跡の一つや二つ増えようが雲雀は気にもしないが、『恭弥の綺麗な肌に傷跡残るなんて俺が嫌だ』と、涙ながらに訴えるので好きにさせていた。 
ソファーに座った雲雀の前に膝をついたディーノは、手足の見える所を順番に処置していく。 
スカートから下は擦り傷がいくつかあったが、絆創膏を貼れば済む位の傷に、つけた当人が痛そうな顔をしていて、ふいに屋上でのことを思い出した。 
「あなた、飛行機が嫌いなの」 
「…お前はいつも唐突だなぁ」 
神妙な顔で雲雀の腕の擦り傷に軟膏を塗っていたディーノが苦笑した。 
「嫌いじゃないが、好きでもねーな。フライト中は仕事してるか寝てるかだし」 
どっちかって言えば車のほうが好きなんだと、聞かれていないことまで言って雲雀を見た。 
「どうしてそう思ったんだ?」 
「さっき屋上で言ってた」 
「あぁ」 
思い当たったらしい。 
『長い飛行機雲だな…』 
雲雀の耳にディーノの声が蘇る。 
疲れ果て、二人並んで屋上で寝転んだ。見上げた空に一筋残っていた雲。 
特に返事を求める響きではなかったので、二人して黙ったまま、暗くなるまで消えていく雲を見ていた。 
「飛行機雲ってさ、飛行機が行っちゃった名残だろ。時間たつと消えちゃうし、なんか淋しくならね?」 
「ずいぶん感傷的な見方だね」 
「普段は乗るばっかりで見ることないから、たまーに見るとな」 
確かにディーノは、見送るより見送られる側の人間だろう。 
軟膏を塗るために雲雀の腕に添えられていたディーノの手がそっと下げられ、下からやんわりと手を握ってくる。 
「あー、でもアレは好きじゃねーな。保安ゲートの金属探知器」 
「…あなた、通れるの」 
「んー、通ったり通らなかったり?」 
軽く驚いた。『通る』こともあるという答えの方に、だ。 
「得物持っててよく通れるね」 
「だって鞭は金属じゃねーもん」 
…そういう問題だろうか。他にもイロイロ携帯しているのは大丈夫なのかと雲雀が窺い見ても、ディーノは何が問題か分からないといった顔で見返してくる。 
なんだか気にした雲雀が損な気がするから不思議だ。 
「捕まったら連絡しなよ。見物に行ってあげる」 
「ひでぇな恭弥。お前らしくて好きだけど」 
笑いながら言われるセリフに感じるくすぐったさ。ディーノだけが与えてくるこの感覚に、雲雀はいまだ慣れることができない。 
むずかゆさにいたたまれず、取られたままだった手を取り返す。 
「そんなに嫌なの」 
「んー、なんかこー、見られてる感じがな。恭弥は気になんね?」 
「通ったことがないから分からない」 
「…えぇっ、恭弥って飛行機乗ったことねーの?!」 
「そんなに驚くこと?」 
乗ったことがないのは、別に苦手とかではなく必要がなかったからだが。 
雲雀の感覚では「飛行機で行く先」イコール「遠い場所」である。 
だが「イタリア」なんて「とてもとても遠い場所」のはずなのに、案外ちかいんじゃないかと思わずにいられない。もちろん、雲雀に咬み殺されるために頻繁に顔を出すディーノのせいだ。 
「そっかー、乗ったことないのか」 
妙に楽しそうな笑顔が雲雀の気に障る。 
「それの何がそんなに嬉しいの」 
睨みつけても、ふやけた顔は戻らない。 
今なら脳天かちわれるかもとトンファーに伸ばした手は、冷たい金属に触れる前に温もりに包まれた。 
「なら最初のフライトは俺に用意させてくれよ。んで、俺と一緒に乗って?」 
 
 
伸ばした手は、冷たい金属に触れる前に温もりに包まれた。 
「なら最初のフライトは俺に用意させてくれよ。んで、俺と一緒に乗って?」 
「どこへ連れてく気なの」 
「ん?恭弥の行きたいトコ」 
てっきりイタリア、ディーノの地元にと予想していた雲雀を、ディーノは目を細めて見つめた。 
「これから恭弥はいろんな場所へ行って、いろんなことを学ぶんだ。楽しいことも、嫌なことも、たくさん。その時、一緒にいられたら俺は嬉しい」 
「…あなたが教えてくれるの」 
「お前が望むなら」 
取られた手にキスが落ちる。 
7つ年上の恋人の多忙なスケジュールのどこにそんな暇があるというのか。 
でも雲雀に甘いディーノだから、なんとかしようと頑張るに違いない。そして目の下にクマを貼付けた笑顔で迎えに来るのだ。 
考えたら今だって似たような状況である。クマこそないが、いつもよりストップのかかるのが早かった。足がよろけていたのを見逃す雲雀ではない。 
大人しく引いたのは、万全ではない相手を咬み殺してもつまらないからだ。そして、万全の体調で来なかったディーノを咬み殺さなかったのは、雲雀相手に手を抜かなかったから。全力でないのはムカつくが、ディーノはいつも雲雀をあしらったりしない。 
だから雲雀も、こんな飴もたまにならあげても良い気がするのだ。 
「行きたい所が決まったら乗ってあげる」 
「おう、任せとけ!」 
でも、嬉しそうな笑顔に念を押すのも忘れない。 
「手合わせできる場所も確保しといてね」 
「……おう、任せとけ」 
眉だけ下がった笑顔に思わず笑った。 
 
 
「それとあなたの嫌いな金属チェック、なんとかしてね」 
「うーん、できねぇことはないけど」 
「トンファーが持ち込めない」 
「こらこら」 
「か弱い女の子に護身もさせない気?」 
「『か弱い女の子』って言葉に謝れ」 
「ならこう言えば良い?僕は丸裸にされるなんて真っ平だからなんとかして」 
「ち、ちょっ、それっ!」 
「イタリアも3空港位導入したって聞いたよ」 
「だから何をっ?」 
「X線検査装置。ニュース見たけど凄いよね。全身クッキリ写ってたな」 
「恭弥の全身クッキリ……」 
「成田にも導入予定だって。あなたじゃないけど、僕も覗かれるのはごめんだから。…なんとかしてくれるよね、ディーノ」 
「全力でなんとかするぜ!!!」 
「うん、よろしくね」 
       
       
       
       
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