赤外線 (3代目拍手)



「ヒル魔さん、見て下さーい」
そう言ってセナが小走りに寄ってくる。
手にはフリップの開いた携帯。
「可愛いでしょ?」
うっすら光る画面には、目を見開いた猫が写っている。
「おー、今日はブレてねーな」
「しっかり固定しましたから!」
エッヘンと胸を張る様は誇らしげだが、正直いままでがひど過ぎた。
「どうやって」
「こうやって」
実践したセナの態勢は、床に寝そべり携帯も床に立てるというものだった。
1階廊下、階段横ってトコか。どうりで薄暗いと思った。
「頑張ったんですよー」
ブレてない画像が嬉しいらしい。まあ、今までがブレブレだったし、それを俺にボロボロに言われていたからだろう。
光の足りない場所で撮られた猫の、暗いが故の丸い光彩がはっきり見える。
これなら言ってやっていいかと、自分の携帯を取り出した。
「送れ」
「はい?」
「もらってやるから画像送れ」
「はいっ」
目の前にかざされた携帯に、照れ臭そうなセナの顔がパァーっと明るくなる。
すぐに真剣な表情で携帯をカチカチしたかと思うと、満足げに息をつく。
同時に俺の携帯が震えた。
怪訝な顔をした自覚はあった。
そんな俺を見てセナも首をかしげる。
「送りましたよ?」
それは分かっている。
俺が言いたいのは。
「誰がメールしろっつった」
「えぇっ、だって送れって」
再度、セナの目の前で携帯を揺らす。
「赤外線でいーだろ」
ポートを見せ付けると、キョトンと見つめ返された。
まさかまさか……
「赤外線ってナンデスカ?」
やっぱりー?!
「テメー、実は幼稚園児だろ、そーに違いねー」
「なんてこと言うんですか!僕はれっきとした高校生ですよ!!」
「ちなみにテメーの着メロ、何?」
「…着メロ?」
決定だ。幼稚園児だ。小学生ですらねー。
「こんな高校生に育つなんて、俺は情けなくって涙出るぜ」
「笑ってるくせにー!!」
涙を拭うフリをすると、プリプリ怒ったセナがネコパンチしてきた。仕方ねーだろ、笑えちまうんだから。
「いつかヒル魔さんくらいに使いこなしてみせますよ!」
「なれるかねー?」
「なります!」
「んじゃ頑張れ」
ふかふかの頭を撫でると、セナはすぐにご機嫌顔になった。
ま、セナが機能一つ覚えるうちに、新機能が五つくらい増えてそうだけどな。



「ヒル魔くらいって、機能かな?数は無理だよね?」
(実は)一部始終を見ていた部員達の誰も、栗田の質問に答えられる人間はいなかった。



H22.4.10〜H23.3.31 まで拍手に使用