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      スペシウム光線(3代目拍手)
 
       
       
       「やだやだやですっ」 
「テメー…」 
「絶・対、いーやーでーすっ」 
往生際が悪かろうがなんだろうが。 
「そんな格好はしたくないですっ」 
ヒル魔さんの部屋からリビングに逃げ出した僕。 
シャツ1枚では外にも出られない。 
服を取りに戻りたくても、ドアの前には当然ヒル魔さんが立っている。 
リビングのソファーを盾に、しばし続く睨み合い。 
「……」 
無言でヒル魔さんが近付くから、同じだけ距離をとる。 
ジリジリ間合いを取りながら互いに動く。 
気付けばソファーの周りで椅子取りゲームのように回っていた。 
「あれの何が嫌なんだよっ」 
「恥ずかしいじゃないですかっ」 
「似たような格好ならしてきてるだろっ」 
「違いますっ」 
どこまでいっても二人の言い分は平行線をたどる。 
ヒル魔さんが無理強いする気がないのは分かる。 
こんな距離、その気になればすぐに詰め寄られて終わりだ。 
それをしないのは優しさかもしれないけど、その優しさはもっと別の事に向けて欲しい。 
「やりたくないったらないんですっっ」 
想像だけで恥ずかしくて、頬はほてるし涙もにじむ。 
チッと舌打ちが聞こえると、ヒル魔さんのスピードが落ちた。 
つられて足を緩めたのと同時に、ソファーを挟んで僕に伸ばされる手が見えた。 
「来ちゃダメっっ」 
捕まっちゃう! 
とっさに目をつむり、腕を頭にかざした。 
だが、いつまでたっても何も起こらない。 
そろそろと薄目を開ける。 
「それは、なんのつもりだ、糞チビ?」 
「なんのって…」 
しっかり目を開いて見たヒル魔さんは、「不可解です」といった顔で僕を見ていた。 
その視線をたどれば僕というより、「僕の腕」? 
僕としては、ひたすら「来ないでっ」って気持ちの一心でしたポーズは… 
「…えっと、ウルト●マンのスペシウム光線?」 
別にヒル魔さんが怪獣だなんてこれっぽっちも思ってないけど! 
とっさに出たのがこのポーズだったんだもん! 
ハァーとわざとらしいため息をついたヒル魔さんは、これまたわざとらしく眉間にシワを寄せた。 
「テメーのそれで倒せる怪獣はいねーだろうな」 
「言われなくてもそれくらい分かってますっ」 
例え光線を出せたとしても、僕の攻撃なんてヘロヘロだって言いたいんでしょ! 
睨んだ僕なんて怖くないと言わんばかりに、ヒル魔さんは首を振って肩をすくめた。 
「避難訓練ってのなら大目にみてやったんだがな」 
「ひ、避難訓練?」 
逃げたいのは確かだけど…。 
「今のテメーは、こう」 
ヒル魔さんがポーズをとる。 
片腕は頭をかばうように、もう片腕はお腹から脇へ。 
自分と左右対象のポーズを目にした僕を猛烈な違和感が襲う。 
「んでもって、正しくはこう」 
ヒル魔さんがいったん解いた腕を十字形に交差させて構える。 
…その右手から出るビームで倒れさてしまいたいくらい恥ずかしい。 
「シェーって言ってみるか?」 
「ごめんなさい、勘弁して下さい…」 
ヒル魔さんが不可解な顔をするわけだ。 
頭とお腹に置いた腕をノロノロ動かし、赤くなっているだろう顔を隠した。 
「隙あり」 
「えっ、うわっ」 
急な浮遊感に腕をのけると、ソファーの背側から伸びた腕が僕を持ち上げていた。 
「両脇、がら空き」 
しまった、逃げてる最中だった! 
そのまま肩に担ぎなおされ、暴れようにも腰はがっちり固定済み。 
「ヒル魔さんっ、ホントに恥ずかしいんですっ」 
「俺に対して今更恥ずかしいもクソもねーだろーが」 
イロイロ見てきたしなと笑う口元がヤラシイ! 
逃げてきた部屋に逆戻り。 
「俺から逃げられるなんて思わねーよな」 
投げ出されたベッドの上から余裕の笑顔で見下ろされた。 
      「ヒル魔さんの、ヒル魔さんの、バカーーー!!!」 
       
       
       
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