春色の電車



「ヒル魔さん」
「なんだ」
「恥ずかしいです」
「仕方ねぇだろ」
発車メロディの鳴る中、急いで飛び乗った電車。
一息ついてやっと気付いた。
服やカバンの淡い色合い。
周りに春色が溢れている。
「次停まるのって」
「5つ先で10分ってとこか」
それなりにいっぱいの車輌の真ん中。
掻き分けて隣の車輌に進むのも難しい。
「移動しましょうか」
「動けばそれはそれで睨まれるぞ」
小声の会話にもチラリチラリと向けられる視線がチクチク刺さる。
女性専用車輌に乗ってしまった自分達が悪いのだけど、…なんか恥ずかしい。
「気になるならこっち向いとけ」
お言葉に甘えて車内から少し反らしてヒル魔さんの肩口に顔を寄せた。
「…タバコ臭い」
「移っちまったか」
待ち合わせ場所の横にあった喫煙スペースを思い出す。
知らないタバコの匂いの中に微かに混じる知ってる香りがする。
「一人じゃなくて良かったです」
呟いたセナはすっかり忘れていた。
そもそもヒル魔の「飛び込め!」に反応して飛び乗った事を。
そして予想もしなかった。
鈴音から「電車内で妖兄に抱き着いたんだって?!」と聞かれ逃げ出す羽目になる事を。





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