感じさせてくれないか



並中を訪れると恭弥は不在だった。
町内で取り締まり活動中とのこと。
留守役に待つかと聞かれて断った。
「こっちから行くから」
冷房の効いた車内に戻り、行き先を聞いてくる部下に答える。
「町内を適当に流してくれ」
運転役が肩を竦めてアクセルを踏む。
一応場所は聞いたけれど、活動熱心な恭弥だから。
はたして数10分後、予定区域から大きく離れた工場跡地。
一人で出て来る恭弥を見つけた。
「お疲れさん」
ディーノが投げたペットボトルを危なげなく受け止める。
ラベルを見た雲雀の眉間にシワがよる。
「甘いから要らない」
「運動の後には栄養補給だろ」
「こんなの運動のうちに入らないよ」
投げ返されたアイソトニック飲料を部下に手渡した。
部下達に下がっておけと手を振って、ディーノは雲雀へと一歩を踏み出す。
夏の太陽にキラキラ光を弾く汗。
それよりもっと輝く瞳。
「退屈そうな顔してるね」
「最近つまんねー仕事ばっかでな」
きな臭く血生臭いことの連続で、流石のディーノも気分がクサクサしていた。
一通り片をつけ、休めと言われて渡されたのは日本行きのチケット。
こんな気の利くファミリーを持つボスは俺くらいだと笑いが込み上げる。
軽く地を蹴り銀の軌跡を躱す。
「気分転換なら他を当たりなよ」
次々繰り出される攻撃を避ければ、徐々に隙が現れる。
そこを突けば一瞬で終わるだろう。
「そんな事言わずに付き合ってくれよ」
軽く言ったつもりだったが、恭弥の手が止まった。
いつもは仕事と抱き合わせだ。
比重が雲雀寄りだろうと手ぶらで帰国したことはない。
今回は違う。
「…あなた、何しに来たの」
「もちろん恭弥に会いに」
書類や情報の駆け引きも。
銃弾飛び交う抗争も。
何ひとつ手を抜けないやり取りに違いないけれど。
「生きてるって感じさせてくれよ」
ディーノのセリフに雲雀の目が光を増す。
「なら死になよ」
言われた時には頭上に光るトンファーを取り出した鞭で受け止めた。
泥の中に沈み込んでいくような世界にあって、息苦しくてたまらなかった。
今は雲雀の熱く、鋭く、肌を切り裂く殺気が心地よい。
肺に満ちた空気を吐き出す。
「愛してるぜ、恭弥」
うっすら笑んだ唇が「僕もだよ」と言ってる気がした。




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