ひらめいて、きらめいて



とっくに日も落ちた放課後の応接室。
午前中から昼過ぎ、昼過ぎから夕方と、次々届いた予定変更のメール。
帰宅しようと開けたドアの向こう側。
鈍い音と手応えに、雲雀の足元から苦悶の呻き。
涙目の謝罪にため息と愛器をおさめた。
翌日の手合わせを確約させ、食事の誘いに応じた。
ディーノの泊まるホテルでの食事。
いつもは車で移動する短い道のり。
歩こうかと言われて頷いた。
「ジャッポーネはホントに夜も明るいな」
吐く息も白い冬の夜。
街中に溢れる群れに入りたくなくて、1本裏を並んで歩く。
表よりは控え目な街灯が裏道を照らす。
「あなたのとこは暗いの」
「ここよりはな」
お腹を空かせるためが歩く理由だったはずだ。
こんな散歩のペースでは運動とはいいにくい。
けれど。
「いつもホテルの窓から見てるんだ」
並盛っていい街だな。
微笑みながら言われて悪い気はしない。
「でも、俺のトコもいい街なんだぜ」
「ふーん」
「あっ、並盛のほうがいいに決まってるって顔してるぞ」
そうなるようにしてきたのだから、当たり前に決まってる。
それに。
「他の街なんか興味ないよ」
雲雀は並盛の風紀と秩序が保たれていればそれでいいのだから。
「えぇ〜〜〜」
子供のようなブーイング。
「もっと外に興味持とうぜ!」
いろんな事を見て、聞いて、感じて。
恭弥がイイナと思ったら並盛に持ち帰る。
それって、できたら楽しそうじゃね?
雲雀に提案しておきながら、ディーノのほうが楽しそうだ。
「そうだ、きらめいた!」
ひょいと覗き込んできた顔がニカッと笑う。
頭上の光は白っぽいのに、髪に弾かれディーノを縁取りキラキラと光らせる。
あぁ、確かにきらめいているなと。
一瞬遅れて、否定が頭を過ぎるが。
「社会見学しようぜ!もちろん最初は俺の街な」
続いた台詞に声を出しそびれ。
「街が一番綺麗に見えるトコがあってさ」
実は俺の秘密の場所。
背を伸ばし腕を広げたディーノには、その景色が見えているんだろう。
言いたいことはたくさんあった。
単語を間違っているよとか。
何故にいきなり外国なのとか。
社会見学は観光じゃないの分かってるかとか。
なのに。
口元に立てた指が「皆には秘密、な」と念を押してくるから。
「そのうち、ね」と頷いてしまっていた。
恭弥の知らないディーノの街。
ディーノが好みそうな安穏なイメージがわく。
けれどきっと、キナ臭いも嗅ぎ取れそうな街。
マフィアのお膝元で雲雀を待っているのはどちらだろうか。
「楽しみだな」
綺麗に閉じられた片目の先で、まつげまでもが光りを捉えた。
あなたがするとキザなウインクも確かに「きらめき」だ。




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