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      頬っぺにxx 
       
       
 ハグの挨拶は習慣じゃない。 
そう言って言葉と態度で恭弥にしりぞけられたスキンシップ。 
ディーノは「何事も経験だろ」と言い続け、腕を広げ続けた。 
抱きしめる事が出来た時には感動で胸が震えてしまった。 
しかし、それだけでイタリア男が満足できるはずがない。 
近づけたなら抱きしめたいし、抱きしめたならキスしたい。 
けれど恭弥はなにもかも初めてだから。 
急ぎたい気持ちを抑えて心で唱えた「ちょっとずつ」。 
驚かさないように優しく。 
逃げられないように包みこんで。 
腕の中にすっぽりおさまる身体をギュッと抱きしめ、頬を黒髪に寄せた。 
次は頬をくっつけた。 
「恋人ならハグとワンセット」は嘘じゃない。 
ステップの低さに歎きたくもなるが、なにより大事な恭弥のためにゆっくりを己に言いきかす。 
雲雀がディーノの体温に身体を強張らせなくなった頃。 
触れて離れた柔らかい頬。 
横を向いた恭弥が見せたのはほんのりピンク。 
リップ音を鳴らせたいのをグッと堪える。 
本当に鳴らせたいのは、その横にある場所だから。 
不埒な思いをごまかす代わりに、ピンクの真ん中に指を添える。 
「こっち向いて」と囁けば、動きに押されてフニャンとへこむ頬。 
丸く開いた目も可愛くて、ディーノは胸に溢れる幸せを噛み締めた。 
しかしながら「頬っぺにツン」は失敗だった。 
これも挨拶だと受け取った恭弥が自分からディーノをつつくようになってしまったのだ。 
ハグにはハグで、頬には頬で。 
そう言ったのは確かにディーノだ。 
楽しそうにつついてくる恭弥に、ディーノもつつきかえす。 
部下に笑われ励まされ。 
後退してしまった恋路の険しさに、ゴールの遠さを思わずにいられないディーノだった。 
       
       
       
       
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