駆け込み乗車 
       
       
      
        
          
             
             
             
             改札を抜けてホームを見ると、乗りたい電車がちょうどドアを開けるのが見えた。 
「わわっ、電車来てるよ!」 
             後ろを走るモン太を急かす。 
             階段を駆け降りたところで、モン太がついてきてないのに気付いた。 
             振り返り見上げた先に、人混みからようやく抜け出したモン太が。 
             あぁ発車のベルが鳴っちゃった。先に行けと手を降るモン太と今にも閉まりそうなドア。どっちをとるか決めかねていると、すぐ近くから声が飛んできた。 
「さっさと決めろっ」 
「はいぃっっ」 
             思わず飛び乗った背の後ろでドアが閉まる。ホームに残されたモン太はと見やれば、笑って手を振ってくれていた。 
             動き出した車内から手を振り返し肩の力が抜けてようやく、隣に立つ人に気付いた。 
「…ヒル魔さん」 
             と、栗田さんにムサシさんだ。 
「あ、さっきの『決めろ』ってヒル魔さん?」 
「聞いて分かれ、糞チビ」 
             うぅ、すみません… 
「でも乗れてよかったねぇ」 
「けど、慌てると怪我すんぞ」 
             タイミングよく『駆け込み乗車を危険です。発車の妨げになりますのでお止め下さい』とアナウンスが流れる。自分に言われているみたいで、とたんに周囲の目が気になりだした。 
「ところで、何であんなに急いでたの?」 
「えっと、夕飯に僕の好物作ってくれてるはずなんで」 
             理由が恥ずかしくて居心地が悪いよ〜。 
             笑いの気配が2つ、ヒル魔さんとムサシさんから。ヒル魔さん、鼻で笑うし。 
「子供みたいで恥ずかしいですよね」 
「メシがうまいってのは良い事だろ」 
             ムサシさんは優しく言ってくれるけど、頭を撫でなれると子供扱いにしか受け取れない… 
「そうだよ大事だよ、急いで帰りたい気持ち分かるよ!」 
             と、栗田さんの言葉だけが熱い。嬉しいような、一緒にされたくないような。 
「ちなみにセナ君の好物って?」 
「エ、エビフライ」 
「けっ、ホントにガキくせっ」 
「おいヒル魔…」 
「ホントですから気にしないでくださいっ」 
             ムサシさんがヒル魔さんに何か言いかけたところを無理矢理間に入って止める。僕なんかのことで二人にケンカなんてダメに決まってるよっ。 
「ケンカなんかしないから心配しなくて大丈夫。ほら、ケンカするほど仲がいいって言うじゃない?」 
             栗田さん、フォローになってません… 
「それだとケンカしないといけないみたいだぞ、栗田」 
「えぇ〜そう〜?」 
「バカな理由でケンカなんかしたらそれこそバカだろ」 
             口に出しはしなかったけど、心の中でヒル魔さんの意見に頷いた。 
「でもエビフライ美味しいよね!ヒル魔も嫌いじゃないでしょ?」 
「まずくなけりゃなんでもいい」 
「またまた〜」 
             栗田さんとヒル魔さんの掛け合いがなんだかとっても『友達』な感じで頬が緩んじゃう。 
「何笑ってんだ」 
「す、すみません」 
             気が付くと、恥ずかしさからくる居心地の悪さが消えて、自然と笑えてる自分がいた。部活動をしたことない自分の初めてできた『先輩』たち。友達とは違うけど、誰かと同じ場所と時間を過ごせる今がなんだか嬉しくってこそばゆい。 
             ヒル魔さんも睨まれてもあまり怖くないのは、横に栗田さんとムサシさんが楽しそうにしてるからかな。 
「好きでしょ?って聞かない栗田さんは凄いなぁって」 
「えぇ〜何も凄くないよぉ?」 
             言われた栗田さんが驚いて否定するけど。 
「だってたいていのことははぐらかすヒル魔さんから『さあな』以外を引き出せるなんて凄いじゃないですか」 
             ピクッと上がったヒル魔さんの眉にしまったと口をふさいでも、出ちゃった言葉は消えてくれない。 
「凄いのはセナ君だよ!ヒル魔ってはぐらかしてばっかりなんだよぉ〜」 
「たいてい話しかけてくるヤツもいねぇから、まずははぐらかす以前の問題なんだが」 
             な、なんだか二人とも楽しそう? 
「けど、ヒル魔がそんなだって知ってるくらいセナ君はヒル魔と話せるんだね〜凄いよ!」 
「良かったなぁ、こんな理解ある後輩に恵まれて」 
             えぇと、確かに後輩は後輩なんだけど…あまり人様に言えない関係もあるというか… 
             そろりと窺った顔にはまさにニヤリとしか言えない笑みが浮かんでいて… 
「家まで来てメシも食ってきゃ泊まりもするんだ。そりゃ理解もするわな」 
            「セナ君、ヒル魔の家に行ったの? 僕らにも教えてくれない家に?!」 
「あっ、あのっ、分からないことがありすぎてですねっ、色々教えてもらうのに都合が良かったというかっ」 
「オベンキョウしたよなー、ホントにイロイロ?」 
「そっそうですねっ、たくさん教えてもらいマシタっ」 
             ヒィーーー、ヒル魔さん楽しそう!! 
             真っ青から真っ赤に顔色を変えた僕とご機嫌なヒル魔さんをムサシさんが見比べ、もしやって顔になる。 
「俺が見つけたんだ。手塩にかけて当たり前だよなぁ」 
             すっごく含みがあるように聞こえるのは気のせいだよねっ! 乗った時以上に居心地悪いんですけどっ! 
             わたわたする僕をじっと見て、当然といった感じのヒル魔さんをじっと見て、諦めたようにため息をついた。 
「……大事にしろよ」 
「だとよ。テメーも理解ある先輩に恵まれて幸せだな」 
「そうですね…」 
             意地の悪い笑顔のヒル魔さん。 
             生温かい笑顔のムサシさん。 
             単純に嬉しそうな栗田さん。 
             三人三様の笑顔に囲まれて、僕はもう駆け込み乗車はしまいと心に誓った。 
 
             
             
             
                                                Fin. 
             
             
                                             2009.
            1. 21 
             
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      「セナのやったのは『駆け込み乗車』じゃないよね?」 
      なんて、言わなーいで〜言わなーいで〜♪ 
       
      1月21日は「121」でヒルセナの日〜vvv 
       
       
       
        
       
       
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