休養日だったはずの今日、出掛けるぞと言って連れて行かれた先は、たくさんの人で賑わうお寺だった。



  『最強のお守り』



 人の隙間を擦り抜けるのは得意だけど、すし詰め状態だと身動きとれなくって流されちゃうんだよね僕… ヒル魔さんもそれは分かってるから、混み合う中を拝殿前まで僕を庇いながら移動してくれる。
 いつの間にか用意されていたおさい銭を渡され、取りあえず無病息災を祈って手を合わせておいた。

 今度は人の流れに乗って屋台が並ぶ参道へ向かう。
 ちょうど昼時でお腹もすいてきたとこだけど、ヒル魔さんここで済ませちゃう気かな。
 つまむ程度ならともかく、3度の食事バランスには実はうるさい人なのに。
 足取りはゆっくりで通り抜けのスピードじゃないし、ヒル魔さんもチラチラ屋台を覗いてる。
 それならと僕も物色を始めたけど、屋台って目移りして困るんだよね…
 りんご飴にチョコバナナ。焼きそば、イカヤキ、フランクフルト!
 初詣に行った時とかもどれも良いニオイで美味しそうだから迷ってるうちに参道を歩ききっちゃって、結局何も食べずに帰る事もあったなぁ。
 戻って買いに行けば済む話なんだけど、食べたいものを決めずに戻ってもまた迷うだけだし。まもり姉ちゃんと行くと選ぶ前から手渡されてたから、量が多くて反対に食べるのに苦労したけど。

 思いだし笑いしていると、目の前にタコ焼きの皿が出てきた。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
 出来立てアツアツを受け取って、道の隅に寄った。
「慌てて落とすなよ」
「しませんってば」
 と言うものの、夏祭りの時に焼きそばを半分落とした僕の言葉に説得力はなかったらしい。ヒル魔さん、ティッシュの用意してるし…
 用心しながら食べてると、視線を感じたので顔を上げる。じーっと見つめる先は僕の手元。
 ひとつ取ってフーフーと冷ましてから差し出すと、ちょっと屈みながらパクリと一口で頬張りヒル魔さん。
 自分用に買うことはないんだけど、欲しい時は僕が食べてるのをじーっとみるので欲しいんだなって分かる。
 最初はトレーごと渡しても受け取らないし、欲しくないのかとまた食べ始めるとじーっと見るし。気になって仕方なくて、「食べますか?」ってつまんでみせた焼きソバに食いつかれた時はすんごいビックリしたっけ。
 それ以来、ひな鳥にエサをあげるみたいに買ってもらった物を差し出すようになった。 買ってもらったものだから、「あげる」はおかしいんだけどさ・・・
 でも僕の手元から食べ物を食べるヒル魔さんって、なんか可愛いんだよね〜。 ヒル魔さんに対して「かっこいい」はあっても「可愛い」なんて思う日が来るとは思わなかったなぁ。 本当に自分でも不思議だけど、他のみんなはこんなヒル魔さん知らないだろうなと考えたりするとついつい笑っちゃったりもして。 こーゆーのが優越感ってのかな?
「ヒル魔さん、次はたい焼き食べたいです」
「あんな糞甘ぇもんよく食うな」
「しっぽまで餡子が入ってないとイイですね」
「・・・」
 餡子は絶対食べないけど、皮の部分はそんなに嫌いじゃないって僕知ってますよ。
「さ、行きましょう♪」
 食べ終わった皿をゴミ箱に捨てて、ヒル魔さんの腕をひっぱって歩き出した。



「ところで、今日はどうしてココへ来たんですか?」
 参道も通り抜け、駅へ向かう道を歩きながらずっと気になっていた事を聞いてみた。
 お参りした後で言うセリフじゃないけど、ヒル魔さんと神頼み(今日は仏頼みかな)程似合わない組合せもないし。
 ヒル魔さんの『いまさら何を言ってやがる』目線は痛かったけど、『分からないのもは分からないんです』目線で対抗してみる。
 しばしのにらみっこの末、ため息をついたヒル魔さんが目線を逸らした。そんなにわざとらしくしなくったっていいじゃないですか。
「テメーが節分がどーのこーの言うからきたんだろ」
 ・・・節分って、豆まきしてないし、豆も食べてませんよ。
「昨日も言っただろうが! 豆まきなんざ後の掃除が面倒だろう。落ちたもん食うのもあれだし」
 確かに昨日ソレは聞きましたが。
「節分ってのは豆まいてで鬼って名前付けた災厄を追い払う行事なんだから、要するに厄払いだろ」
 そうなるんですか? 僕全然知りませんでした。
「境内にも参道にも『厄除け』だの『厄払い』だのでかでかと書かれてたじゃねーか」
 すみません、目に入ってませんでした。
 って、僕声に出してしゃべってないんですがっっっ!!!
「テメーは考えてる事が全部顔に出てるんだよ」
 確かによく言われます・・・
「まぁせっかく買ったんだからさっきのも持っとけ。テメーなら気休め程度になるだろ」
 俺はいらねーけどなと言われた品は、お参りした時に買ってもらったお守りの事だろう。 取り出してみれば、入れ物にも本体にもちゃんと『厄除け』と書かれていた。
「もちろんヒル魔さんに買ってもらったものだから大事にします」
「来年返すんだから適当にカバンの中にでも入れとけ」
「えぇ、返すんですか?!」
「そんなもんの有効期限はだいたい1年なんだよ。そんな事も知らねぇのかよ」
「そんなのヒル魔さんが物知りなだけですよ」
 うちの両親が買ったお守り返してる姿なんて見た事ないもん。
 どこに入れておこうか悩んだ末、お財布に入れておく事にした。小さい物だし、お財布ならいつも持ち歩くもんね。



 でもお守りかぁ。悪い事から身を守ってくれるって事だよね。
 ・・・ヒル魔さんがいるから、お守りは要りませんって言ったら怒られるかな。
 火照りだした頬を押さえていると、前を歩いていたヒル魔さんが思い出したように言った。
「そういや、豆まきしてたら誰に鬼の役をやらせるつもりだった?」
 火照った頬が一気に冷える。
 しまった。そこまで考えてなかった。
「セナ君は家主を鬼に見立てて家から追い出そうって考えてたんだな」
「すみませんっそんな風には思ってませんでした! ヒル魔さんが鬼なんて・・・ 鬼なんて・・・」
 必死に言いつのる僕の目の前には、ニタリという形容詞がピッタリのヒル魔さんの笑顔が。
 いまなら鬼の面、要りませんよヒル魔さん・・・




                                     Fin.

                                2007 .2. 5




「知らないだろうな」ってセナ君、周りの人が見てますよ(笑)
節分終わってますね。
・・・気にしない気にしない!
第一、この人達「節分」って行事に参加したんじゃないし?

結局、私って何が書きたかったのかな?
(そんな事聞かれても困りますよね?)