※ attention!

このSSは「ディーノの耳垢がベタベタしている」ことを
前提として書いています。
そこに嫌悪を感じる方は
バックブラウザで戻る事をオススメします。
「そんなディーノでもOK!」という方は
このまま下へスクロ−ルして下さい。
























飴色etc.



 今日もノックというより激突の振動の後で開いたドアから入ってきたディーノは雲雀を見て目を見開いた。
 途切れながらも応接室に近づいてくる足音が聞こえたので、ドアの開閉にも驚く事なく雲雀は手を動かし続けていた。
 しかし、いつもなら駆け寄ってくるディーノが突っ立ったまま動く気配が無い。不思議に思ってそちらを見ると、ディーノは雲雀の手元を凝視していた。
「座れば」
 あまりに熱い視線に耳がムズムズしだした気がして、横から前に移動するよう促す。
 そしてようやく動いたディーノだったが、やたらゆっくり歩く。向かいのソファーに座るときも慎重で、何も仕込んでないのにと思いつつも雲雀は黙って手を動かしていた。
 雲雀が手を離せない時は、ディーノも静かに待っていることが多い。だから、今も大人しいのはいつも通りといえたが、いつもと違い小声で「凄い」を連発している。しかもその目がキラキラしている。
 すっきりとした感触に満足して、耳かきを耳から外す。机に置いたティッシュに耳垢を落とし、横に用意しておいた綿棒で最後にくるりと外耳をひと撫でした。
「恭弥はやっぱすげーなー」
 キラキラした目から読み取れるのは興奮だ。しかも読み間違いで無いなら「尊敬のまなざし」と呼ばれる部類な気がする。
 雲雀への高評価は当然のことだから置いておくとして、不思議なのはディーノの感心度の高さだ。耳掃除なんて出来て当たり前のはずなのに。それでも、だ。
『目は口ほどにものを言う。』
 まさに今のディーノにピッタリである。今日は見た目以上に飴色が輝き、キラキラがキラッキラに倍加していて雲雀は目を細めずにいられない。
 そのキラキラしさに、もしかして実は体内で蛍でも飼ってるんじゃないかと疑い始めている雲雀だ。
「うるさい」
「あれ?そんなうるさかったか?」
「うん」
 声のボリューム以前に、ディーノは気配からなにから全体的にやかましいと雲雀は思っている。今日はさらにやかましくっ感じるのは気のせいではないだろう。
 しゅんと萎れた顔でディーノが謝罪してきた。
「そっか、気ぃ散らして悪かったな」
「もう終わったからいいけど」
 手元を片付けながら雲雀がそう応えると、先程のしおらしさはどこへやら。またディーノはキラッキラの気配を振り撒きだした。
「ねぇ、なんなの」
「へ?なんなのって、何が?」
 キョトンと問われた。
「ずいぶん大袈裟に驚いてるね」
 珍しくもないでしょう?と手に取った道具を揺らす。雲雀の気に入りの品だが、特に高級という物でもない。
 耳掃除のどこに感心されているか分からず、さすがの雲雀も少々居心地が悪くなってきていた。
「こんなこと出来て当たり前でしょ」
「そんなことないって!俺はしたことねーもん!」
「………不潔」
「違うっっっ!!!」


 出来る出来ないの言い合いからどうしてこうなったのか。
「んじゃ、よろしく」
 雲雀の揃えた腿の上でパサパサと金色が音をたてた。お辞儀のつもりだろうが、肝心の顔は雲雀の反対に向けられている。
 ディーノいわく、イタリア(というかアジアの一部以外)は自分で耳掃除をする習慣があまりないらしい。
 気候も多少関係があるらしいが、なにより体質の違いがあるのだと。それに具合が悪くなれば医者に行くのだそうだ。
 だが、雲雀には「体質が違うから」と言われてもピンとこない。
 確かにディーノには信じられない鈍臭さや、目にやかましいキラッキラな見た目を持ち合わせている。だがそれはあくまでディーノ個人の体質のはず。そんな人間がゴロゴロいたら邪魔でしょうがない。
 それに雲雀の思ういわゆる『標準』には収まらないとはいえ、それでも同じ人間ではないか。耳垢にどんな違いがあるというのか。
 したり顔で「世界は広いんだぜ!」と言われても、雲雀にはただの物ぐさの言い訳にしか聞こえなかった。
「痛くしないでくれよー」
「お望みならグチャグチャにしてあげるけど」
「それはまた別の時にお願いします」
 チラリと流された目元は笑っている。
 別の時っていつ来るの、と言いかけて止めた。またくだらない言い合いになりそうな気がして。
 それより今は腿の上の荷物をどうにかしなければ。いまさらどけと言ったところでディーノは動かないだろう。
 こうなったらさっさと終わらせるのが一番手っ取り早い。
 雲雀はディーノの耳を引っ張った。
 たまに外耳辺りは綿棒で拭くと言った言葉は嘘ではないらしく、パッと見える部分には汚れもなく産毛が光っている。しかし綿棒なら奥にある耳垢は掻き出せずに残っている可能性が高い。
 奥は見えにくいこともあって、雲雀も耳かきを慎重に滑らせていく。
 もう少しで中耳に差し掛かろうとした位置で、雲雀の指先は予想と異なる感触を耳かきから感じ取った。カサカサとした塊に当たる感覚とは明らかに違う。
 さらに覗き込もうと頭を下げるが、そのために雲雀の頭が影を落とし、より見にくくなってしまった。
 焦れた雲雀がディーノの頭をグイと部屋の明かりに向ける。
 そこで雲雀は目を疑うモノを見てしまった。
『・・・・・・なに、このペカペカした物体は・・・・・・』
「いててっ」
 いきなり首を引っ張られたディーノだったが、少し角度を変えた程度の動きだ。痛いぞーと訴える声も笑いを含んでいる。
 いつもなら「うるさい」と取り合わないでいられただろう。しかし、今の雲雀にその余裕はない。
 見てしまったコレをどうしたら良いのか。
 耳の奥にあるのだから耳垢と呼ばれるものに違いない。けれど、ベッタリしっとり耳に張り付くその物体は雲雀の想像外のシロモノであった。
 本当に世の中の人間はこんなベタベタな耳垢の人間の方が多いのだろうか? ちょっとぺカッと光る部分は飴色で、なるほどディーノの耳垢なのだと唸らずにいられない。が、自分とのモノとのあまりの違いに驚いた雲雀は、ディーノの言う「体質の違い」の現物を前にして動けなくなってしまった。
 その時、ある考えが雲雀の脳裏にひらめいた。
 ・・・もしかしたらディーノは「一般的な体質の違い」以上に変わっているんじゃないか?
 だってディーノを見るたび雲雀は不思議に思っていたのだ。その証拠に髪も目も歯もありえないくらいキラキラしているではないか。
 もしや頭上を透明な蝶が飛んでいて、そのリン粉が髪にかかっているとか?
 それとも肌に透明な光る苔が生えているとか?
 怪しげな武器やムカツキが力になったりするマフィアの世界で「ボス」なんてやっている人間だ。変わった所の一つや二つや三つや四つ持っていてもおかしくはないんじゃないか?
 そうだ、そうに違いない。そう思ったら気持ちが少し落ち着いた。
 それにしてもなんという事だ。小動物は嫌いじゃないが昆虫や植物は雲雀の好みの対象外である。
 キラキラするのはディーノの勝手だが、それは雲雀といない時にしてほしい。もう少し目に優しくなってもらわなければ、目の眇めすぎで雲雀の目が悪くなってしまうではないか。
 それは困ると真剣に悩む雲雀だったが、残念な事にその考えにストップをかけてくれる者はその場にいなかった・・・。


 こうして雲雀の脳内から『体質その他』の可能性がどんどん追いやられはじめる一方、ずっとおとなしくしていたディーノが一向に始まらない耳掃除を不思議に思い閉じていた瞼を開けた。
「どした?恭弥?やっぱ人の耳掃除って難しい?」
 その言葉にハッと自分を取り戻した雲雀はディーノの頭からそっと手を離した。
「……そうだね。あなたの耳は僕の手には余るようだ」
「そっか。恭弥になら出来るかと思っちまった。無理言って悪かったな」
 僕だって「出来ない」なんて、どんな場合だろうと言いたくなかったよ!
 嫌味のないディーノの言葉に大声で叫びたくなった。だが、それをグッとのどの奥にしまいこむ。
「そっちでは病院へ行くんだろ。並盛の医者もいい腕だよ」
 そうだ、ディーノのアレは病院で診てもらえばいい。ついでに検査結果を雲雀に回すよう手配しなければ。
 新種の蝶が見つかったら並盛の名前をつけさせようと雲雀は決めていた。
 理論的に考えているつもりの雲雀だったが、その思考は指輪の話以上にファンタジーであると気付いていない。
 既に雲雀の中では「体質の違いの証拠品」より「昆虫と戯れてるディーノ」に問題がずれている。
 そんな雲雀のファンタジックな想像に気付く様子もないディーノは、言いにくそうに目線をそらして笑った。
「ほら、マフィアのボスが一般の医者にかかる訳にはいかねーだろ?」
 確かにこのキラキラは『5000の部下を持つマフィアのボス』を名乗り群れている。本国でなくても、いや本国でないからこそ様々な面で用心が必要なのは当たり前。体に触れる相手は厳選するだろう。それくらいは雲雀にも想像がつく。
 だが、そのもっともらしい理由も、雲雀にはもう苦しい言い訳にしか聞こえない。
「恭弥のオススメなら安心だけど、だから病院はちょっとな…」
 ディーノの「体は見られたくない」発言に、雲雀はさもありなんと内心で頷いた。
 知っているのがファミリーの医者だけならボスの恥ずかしいアレコレも外には出るまい。何事に対しても常に警戒心を忘れないのはいいことだ。
 その割にウキウキと雲雀の腿に頭を乗せたが、ディーノの特別である自覚くらいは雲雀にもある。だからディーノも心を許したつもりで耳掃除なんてねだったのだろう。
 雲雀だって昼寝から目覚めたらディーノが横にいたりすることもあった。木の葉の立てる音でも目覚める雲雀がそれを許しているのだから、雲雀だってディーノが特別だと思っている。
 それをこんな形で再確認したくはなかったのが・・・。
 が、雲雀もディーノの恥ずかしいアレコレ(あくまで雲雀の決め付け)は広まってほしくない。
「でも気が向いたらやってくれよ。待ってるからさ」
「…そうだね」
 そう、今はベタベタ耳のディーノだが、ずっとアレのままではないはず。もっとずっと先ならカサカサになっているかもしれない。
 蝶だっていつかは飛び立っていくだろうし、苔だって枯れてくるかもしれない。
 それくらい経った日なら。
「してあげてもいいよ」
 やった!と笑うディーノの喜びように、いつになるか分からないとは言わないでやろうと雲雀は思った。



                                2012.
03. 01

                                   Fin.



ここまで読んでくれた読者様、ありがとうございます。
だ、大丈夫でしたでしょうか???
・・・嫌いにならないで下さいね・・・
後日談もあるけど書いていいのかな(苦笑)

しかし、世界には湿性耳垢の方が多いと、今まで全く知りませんでした。
私は中耳炎以外で耳がベタベタした事がありませんし。
カサカサの方が取りやすくて良いように思うんですがね?

耳垢の湿性・乾性って遺伝子で決まるんですって。
遺伝子・・・。子供ネタ思いついちゃった(笑)