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      向けて向けられ 
       
       
       
      雲雀が風紀の仕事を終えるまでと断って、手足をはみ出させながらソファーに横になっていた春の日。 
目を休ませる程度のつもりが、気付けば窓の外は夕闇がおりようとしていた。 
ディーノがとび起きると、机に頬杖をついた雲雀と目があった。 
「よだれ」 
「うわっマジで?」 
待つつもりが反対に雲雀を待たせてしまうなんて何をしてるんだと自分を叱りつつ、謝ろうとした。が、雲雀の指摘に開けた口を慌てて手で隠す。 
「が、出そうな大口開けて寝てた」 
「…なんだそれ、途中で切るなよー」 
ばつの悪さや色々をごまかしたくて「意地が悪いぞ」と笑ってみせるが、じっとディーノに向けられる視線にはからかう色も咎める色も見当たらない。 
「あなた、本当にマフィアのボスなの?」 
「そうだっていつも言ってるだろ」 
聞き慣れた質問に言い慣れた返事を返す。 
ディーノは雲雀によくこの言葉を言われている。だいたいは疑わしげだったり、嘲笑だったり、たまに今日のように不思議そうだったり。 
何度聞かれても同じ答えなのにとディーノは思うが、雲雀は気になることがあるたびに口にする。 
違う答えを返したらどう反応するか見てみたい気も少しはあるが、たぶんそんな日はこないだろう。ディーノは「俺はボスじゃない」とは言う気がないのだから。 
「熟睡してた。いくら並盛が平和だからって無防備すぎる。それともあなたの危機管理意識が低いだけ?」 
「ひでぇなぁ。なんかあったら起きるから大丈夫だって」 
「何かって何」 
「えーっと、人の気配とか動きとか?」 
「本当に?」 
「当たり前だろ。伊達にマフィアはやってないぞ」 
雲雀の淡々とした質問にディーノもきっぱり返す。いくらここが雲雀のテリトリーだといえどもそこまで気を緩めてはいない。 
しかし、雲雀が無言で指差す先にあるものを目にして一瞬だが固まってしまった。 
 
 
ディーノがとび起きた時にずれたらしい腹から腰にのびるそれは、応接室入口のハンガーにディーノが自らかけた上着だった。 
「これありがとな、恭弥」 
思考が固まったのは一瞬だった。すぐにディーノは落ちそうな上着を持ち上げて雲雀に笑いかけた。 
「校内で風邪菌を撒き散らされたくないからね」 
そっけない雲雀の返事だが今はそれがありがたい。 
雲雀の普段と変わらぬ様子を見ると、ちゃんと「いつも通り」を装えたようで、ディーノはホッとした。 
しかし、まだ鼓動は早い。これくらいで感情を面に出すほど未熟者ではないつもりだが、雲雀は聡い。それに自分でも驚いた出来事に、のどに力を入れないとうっかり動揺が声に出てしまいそうだった。 
ゆっくりを意識して立ち上がる。手にした上着をソファーに置くと、ガチガチに感じる肩を回した。 
「肩凝りなんて、年寄りみたい」 
「ソファーで寝たから固まっただけだっつーの」 
「僕はならないよ」 
「お前もそのうちなるって」 
「そのうちって、いつ」 
「いつだろうな」 
「無責任」 
ポソリとこぼした様子がなんだか幼く見えて可愛いなんて思ってしまう。 
そんなたわいもない掛け合いのおかげでディーノの肩の力も抜けてきた。 
「恭弥、思ってたより俺疲れてたみてーだわ」 
「負ける前から言い訳?」 
笑いながらのツンとした言い方に不満がありありと伺えた。 
「おー、なんとでも言え。恭弥との手合わせは万全な体調でやりたいの」 
「…僕はどんなあなたでもかまわないのに」 
これが恥じらいをこめて言われた台詞なら「恭弥がとうとう俺のことをっ!」と盛り上がれたかもしれないが、もちろんそんなつもりもないのはディーノも理解している。 
真顔でなされた発言は『ディーノが忙しかろうが疲れてようが知ったことではないから闘え』という事である。色気なんてかけらも無い。 
それでもいつものディーノなら仕方ないなぁと雲雀に付き合えたと思う。というより、それがいつものパターンだと言えた。 
だが、今日は駄目だ。ディーノの「ついうっかり」雲雀に万が一のことがあってはならないのだから。 
「俺はかまうの」 
ごめんなと言って丸い頭に手を伸ばしたが、ふいとよけられた。完全に雲雀の機嫌を損ねてしまったらしい。 
さて、傾いてしまった機嫌をなおしてもらうにはどうすればと思案しつつしゃがみこむ。 
「恭弥ー?」 
雲雀を見上げる格好で机ににじり寄る。 
ほわほわした小さい生き物に案外雲雀は弱い。しかし可愛いらしさに訴えるにはディーノのガタイではかなり無理があるのは承知している。 
ディーノの狙いは別にあり、そのために雲雀と目を合わそうと覗き込んだ。 
雲雀は上から目線が大嫌いで下手に出られるのも卑屈だと嫌がる。そんな雲雀にも向き合うコツというモノをディーノは見つけた。 
雲雀は真っすぐ人を見る。目を合わせてしまえば、こちらのもの。一度注意をひいてしまえば、それなりに会話に付き合ってくれるのだ。 
「恭弥?」 
雲雀の名を呼びながらジリジリと雲雀の視線が向かっている方へ回り込む。 
すると不機嫌を隠さない瞳が飴色にぶつかってきた。 
「明日は来るの」 
思わず口元がにやけそうになる。こんな台詞を聞かされて可愛いなぁと思わないほうがおかしいだろう。 
だらしなく緩みそうになる頬をなんとか引っ張りあげる。 
「来て欲しい?」 
「違う。あなたの義務だよ」 
「来るぜ。元気になって、恭弥としっかりみっちり相手しなきゃな」 
「それは良い心掛けだね」 
言質を取った雲雀が満足そうに笑う。 
そうだ。しっかり休んで、気配に気付かなかったなんて事態を起こさないように。 
「俺は恭弥の家庭教師だからな」 
 
 
そうしてホテルに戻り、何か腹に入れてからとすすめられたのを断ると、ディーノは部屋に一人引き上げた。 
だが、ベッドに入っても眠れない。それも当然だ。並中の応接室でディーノは熟睡してきたのだから。 
コンコン 
「起きてるぜ」 
控え目なノックに返事をして起き上がる。寝室のドアを開けるとロマーリオが書類を片手に待っていた。 
「休んでるとこ申し訳ない。待ってた返事がきたんで、書類に承認をもらいたいんだが」 
「やっときたか」 
ロマーリオが持ってきたのはイタリアを出る前に片付いてたはずの仕事の返事だった。 
ソファーに移動し、差し出された書類に目を通す。頷いて「進めてくれ」とディーノは書類を返した。 
急ぎの仕事だ。本国でもボスの承認を待っている。だが紙が手から離れた時、ディーノは「待ってくれ」と声に出していた。 
振り返ったロマーリオが「まだ何かあったか?」と不思議そうに聞いてくるが、驚いているのはディーノのほうだった。呼び止めるつもりなどディーノにはなかったのに、気付けば腰まで浮かせて前のめりである。 
用事もないのに何故と自分でも分からず、待っている部下にも「いや、なんでもない」とごまかすしかない。 
だが、そんなことではロマーリオはごまかされてくれなかった。 
「なぁボス。お疲れでも寝酒くらいイケるだろ?1杯付き合ってくれねぇか」 
「…お前のとっておき持参ならな」 
「へーへー、分かりましたよ」 
了承にヒラリと手を振りロマーリオが部屋を出ていった。 
ソファーに座りなおしたディーノは、さて何をどう話したらと頭を抱えるしかなかった。 
 
 
ディーノがぼんやり悩んでいるうちにそれなりに時間が過ぎていたらしい。 
ロマーリオは約束の酒とツマミというより軽食といった品々を手にやってきた。 
「…ボスが熟睡か」 
ぽつりぽつりとした口調でディーノが語り終えると、ロマーリオの眉間にシワが寄った。 
椅子から立ち上がる音。上着を手に取る音。その移動中の足音。どれもディーノは覚えがない。 
それだけでも驚きなのに、あまつさえその上着をかけられても起きなかったなんて。 
話すうちにディーノはおのれのふがいなさにどんどん落ち込んでしまっている。 
「ボスにしちゃ珍しいな」 
実際ロマーリオが「珍しい」と言ってしまうほどディーノは気配に敏感だ。有事に限らず、ぐっすり眠って見えても声をかければすぐ起きてくるから、寝たふりじゃないかと疑う部下もいるほどなのだ。 
だが、いつも精力的なディーノは睡眠不足には見えない。むしろ健康に問題ないなら気配に敏感なのはファミリーにもディーノ本人にも得でこそあれ損は無いと思われていた。 
      それなのに、だ。 
「珍しいじゃなくて、こんなのあっちゃいけねぇだろ…」 
「あっちゃいけねぇって、そりゃちっとばかり大袈裟すぎないか?それに部屋にいたのは恭弥だろ。何かあったとしても」 
「何かあってからじゃ遅いんだよっ」 
ロマーリオの言葉はディーノに鋭く遮られ、彼の細い目が見開かれた。 
キャバッローネにおいてディーノの決定は絶対だが、だからといってディーノが部下の意見を無下にすることはない。 
それに「感情豊か」に振る舞うディーノだが、「感情的」に行動はしない。ファミリーあってのボスだと公言するディーノだ。時には苛立ちを抑えてでも辛抱強く周りの言葉に耳を傾けようと努めていることをロマーリオは知っている。 
そんなディーノが話半ばの相手を遮るなんてと、ロマーリオは驚きを隠せない。 
膝に肘をつき、組んだ手に額をあてて俯くディーノは苦悩と苛立ちをあらわにしており、部下の驚きにも気付いていない様子である。 
何かあってからでは遅いというディーノの主張は、普通ならおかしいものではない。 
しかし、だ。日本という国にいて、ディーノが危惧するような危険な状況がはたして起こるだろうか?いくら考えてもディーノがここまで悩む話だとロマーリオには思えないのだ。 
確かに起こらないとは言い切れない。次代ボンゴレボスと側近候補が暮らす並盛だからこそ、今のうちにと考える輩もいるかもしれない。 
それが考えの軽い連中ならほって置いても問題ない。その程度なら返り討ちするだけの力をツナ達は身に付けているはずだ。 
もう少し計画的ならどうだろう?相手を見てやり方を変える。当たり前の話だ。 
ただ、どれだけ綿密な計画を立て行動しようとしても、致命的なことがある。 
この国では「外国人」は目立つのだ。ゆえに人の記憶に残りやすく、隠れて動くことが難しい。さして目立たない容姿のはずのロマーリオでさえチラチラと向けられる視線を来日の度に感じるのだから、他の面子など推して知るべしである。 
それに、なんといっても「並盛」には雲雀を頂点とした情報網が張り巡らされている。 
ディーノは毎回来日を知らせているし、リボーンも「並盛の風紀委員」には一目を置いているのか、何かありそうな時は事前に断りを入れているらしい。 
そんな並盛にキャバッローネでもリボーン絡みでもないきな臭い外国人など「疑って下さい」といわんばかりだし、隠れて動いたところで、風紀と秩序の乱れを許さぬ雲雀が見逃すはずがない。 
つまり裏を返せば、並盛でボンゴレ次代候補に事を起こそうとするならば、まず雲雀を欺かなければならず、それには慎重に慎重を重ねざるをえないだろうとロマーリオは思うのだ。 
もっとも、並盛において絶大な権勢をもつ雲雀とて、警察でもなんでもない「並盛中学校の一生徒」にすぎない。観光客などを装えば、「並盛に金を落としていく存在」くらいにしか認識されないかもしれないし、ボンゴレなんて関係ないとばかりに放置する可能性だってもちろんある。 
だとしても。そもそもツナをはじめボンゴレの次代候補達には内密に護衛はついているはずだし、なんといってもツナの側にはリボーンがいる。特定のファミリーに属さないあのヒットマンはマフィアとは別のルールで動いているが、自分の生徒に手を出した連中を簡単に許すとは思えない。下手をするとファミリーが存続の危機にさらされることだってありえる。 
こちらの反撃を歯牙にもかけない自信があるなら話は別だが、それなら最初から隠れて動いたりしないだろう。 
      もちろん可能性はゼロとは言わない。どんな事態も「ありえない」は「ありえない」のだから。 
       
       
と、そこまで考え、長い息がこぼれた。その重さにロマーリオの眉間のシワが深くなる。 
今まで見せたことのないディーノの落ち込みように、ロマーリオや他の側近達がまさかな、違ってくれと、目を背けていた問題が突き付けられた気がした。 
……ここらで腹をくくれということか。部下達も、そしてディーノも。 
ディーノにつられたか考えに入り込み過ぎたかで前のめりになっていた背を伸ばし、ロマーリオはゆっくり口を開いた。 
「恭弥は自分の身くらい守れる奴だぜ。それは鍛えてきたあんたが一番分かってんだろ?」 
「そりゃあ恭弥は強くなってっけど…」 
もごもごとした返事に(こりゃダメだ)とため息が出た。まだ坊ちゃんと呼んで甘やかしていた頃によく聞いた声音だ。 
(でもでもだってのガキか、あんたは!) 
どなりたいのをグッと堪える。 
これも薄々感じていたが、どうやらこれは一番厄介なパターンらしい。 
(こんな問題に首を突っ込みたかないんだがなぁ…) 
誰かに替わって欲しいくらいだが、残念なことにここにはディーノとロマーリオしかいない。いたとしても誰もが生温かい目で「お前が頑張れ!」と応援するだけだろう。 
貧乏くじを引かされた気もするが、変なところに残ってしまった「へなちょこ」も引っくるめこれが自分達の大事なボスで、そんなディーノを支えていこうと決めたのだから踏ん張るしかない。 
「そうだなぁ、弟子の恭弥に守られちまうなんて師匠の面子丸つぶれかもな」 
「いや、俺の面子なんかは」 
渋い顔で言い出したロマーリオにディーノが顔を上げる。だが、それに被せるようにロマーリオは言葉を続けた。 
「いやいや、それよりボスが着いててボンゴレからの預かりっ子に怪我でもさせちまったらキャバッローネの失態に違いないな。あぁ、あんたが気にするはずだぜ」 
うんうんと納得顔のロマーリオにディーノも困惑を見せ始める。 
「だから、そうじゃなくって」 
ディーノは頭をかきながらもどかしさを訴えてくる。だが、ディーノが言葉を続ける前にロマーリオが言い切った。 
「でもな、あんたはキャバッローネのボスなんだ。頼むから面倒事に巻き込まれて怪我なんて止めてくれよ」 
その言葉にディーノの顔から表情が消えた。 
次の瞬間、ロマーリオの全身から血の気が音を立てて引いていく。 
こうなるだろうと分かってロマーリオは口にした。しかし、面には出さないようにするものの、ディーノからかかるプレッシャーで身体中の悪寒が止まらない。 
ロマーリオは別におかしなことは言っていない。むしろNo.2としてボスの身を一番に考えた当然の内容とも言えた。 
これが別のシチュエーションなら、ディーノもたしなめつつ「もっともだ」と頷いたかもしれない。 
しかし、今のディーノは異なる意味合いで受け止めた。狙い通りの反応だったが、正直嬉しくないし、精神的にもかなりキツイ。 
「……」 
ディーノは無言で待っている。ロマーリオの先程の発言の取り消し、もしくは謝罪を。 
ロマーリオだって言ってしまいたい。すまない、失言だったと。 
もちろんボスの意を汲み取れぬロマーリオではない。その一言を口にすれば、二度と言うなよと軽く念押しするくらいですませてくれるだろう。 
(けどな、それじゃダメなんだよ、ボス) 
ここでディーノに自覚してもらわないと、ロマーリオが地雷を踏んだ意味がない。 
震えて上擦りそうなのどを宥め、肩をすくめてみせた。 
「おいおい、なんで俺は相談にのって睨まれてんだ?」 
「お前があんなこと言うからだろ」 
無言だったディーノがやっと開いた口から出た声は冷え冷えとして、さらにロマーリオに震えが走る。 
それを押して「あんなことって何だよ?」と言うと、ため息で返された。 
「…自覚ないなんて最悪だぞ、ロマ」 
(………あんたにだけは言われたくねーよ!!!) 
思わず心の内で盛大に突っ込んだロマーリオだが、おかげで緊張が緩んだらしい。呼吸が楽になった。 
ロマーリオの長いため息にディーノが訝しげな視線を向けてくる。 
「ロマ?」 
「恭弥と二人の時にうっかり寝こけちまった自分が許せねぇんだよな、ボスは」 
頷きで肯定するディーノはまだピリピリした空気をまとっている。しかし、ロマーリオはもう震えてはいなかった。いっそ軽やかともいえる口調で言い切った。 
「なぁボス。それのどこが悪いか、俺には分かんねぇんだがな」 
「ロマーリオ?!」 
その言葉にディーノは勢いよく立ち上がったが、動じていないロマーリオに「落ち着いてくれボス」と制されてしぶしぶ座り直した。 
「お前、俺の話しちゃんと聞いてたのか?」 
今にも詰め寄りそうなディーノにロマーリオが「もちろん聞いてたさ」と頷いた。 
「奇襲にあってたら危なかった、だろ?……バカバカしい」 
「なんだと!」 
また立ち上がったディーノをロマーリオは座ったまま見上げて言う。 
「今の並盛に奇襲かけるなんざどこのバカがやるっつーんだ。第一、襲われたとしても恭弥がそんな簡単にやられてくれるような可愛いタマか?」 
よく考えろと言われたディーノは立ち尽くしたままだ。それでも納得しかねると睨まれるが、ロマーリオにはまだ言いたいことがあった。 
「それに、あんたが奇襲に気付けないだと?キャバッローネはそんな腑抜けをボスと仰いだ覚えはないぜ」 
眉根を寄せたロマーリオに今度はディーノも俯いた。 
叱責や注進なら反発もできただろう。だがロマーリオがディーノに向けたのは絶対的な信頼である。これを受け止められないならディーノにキャバッローネ10代を名乗る資格はない。 
座ってくれよと示され腰をおろしたが、ディーノは俯いたままロマーリオを見ようとしない。 
だが、先程までディーノがまとっていたピリピリした空気は薄まっており、複雑そうな心境がそのまま伝わってくる。 
ディーノがぐらつきだしたことを感じ取り、ここだとばかりにロマーリオは身を乗り出した。 
「ボスは『あんなこと』って言ったが、あんたはどう受け取ったんだ?」 
「どうって、……恭弥を見捨てろとしか聞こえなかったが」 
ぼそぼそと話す様子は小さい頃に言い訳をしていた姿とそっくり同じで、ロマーリオはため息が止まらない。 
「俺は『面倒事に巻き込まれるな』って言ったんだ。なんでそんな変換しちまうんだよ」 
「なんでって…」 
問われて口ごもってしまったディーノをじっとロマーリオは見つめた。 
ディーノは雲雀が傷つくことを恐れていると言うが、そうではない。そうではなくて。 
      「……あんたの気を緩めちまうヤツがいるのがそんなに怖いか?」 
       
       
ピクリとディーノの肩が弾み、しばし固まると組んだ手に顔を押し付ける。 
ロマーリオは辛抱強く待っている。徐々に肩の強張りが解けてゆき、ゆっくりと上げた顔は自虐に歪んでいるのが分かる。 
「恋人候補に立候補なんて言わなきゃよかったな……」 
ポツリとこぼされた言葉には苦さがにじみ、そう言ったディーノの顔も苦さに歪んでいる。 
しかし、ロマーリオはディーノ以上に渋い顔をしている自覚があった。 
なぜなら、ディーノの声にはやり方以上に自らの気持ちを否定する色が濃かった。つまりディーノは雲雀へ向ける想いも彼から向けられる想いも受け入れないと決めたのだ。 
ロマーリオが望んだようにディーノは腹をくくってくれた。だが、その決意は後ろ向きと言わざるを得ない方向へと向かってしまった。 
(恭弥、ホントにすまねぇな…) 
      思った以上にへなちょこだったボスに、ロマーリオは口に出せない言葉を心の中で呟くしかなかった。 
 
       
       
       
                                         Fin. 
       
                                      2013.
      4. 21   
       
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