『 もう少し 』


 朝目が覚めると、カーテンの隙間から手すりに積もる雪が見えた。壁側で寝ていたセナは小さな窓から下りてきた冷気がさぞかし寒かったのだろう。どうりでいつも以上にひっついてきた訳だ。
 そういえば夜中に雪が降ると天気予報でいっていたか。まだちらつく雪に、今日は完全休養日にしてよかったとヒル魔は思った。トレーニングなら室内でもできるが、天気が悪いと気分がくさる。やる気のないトレーニングなどいくらやっても身につくはずがない。
 もう少しセナの寝顔を見ていてもよかったが、空腹が起床を促した。
 まだ朝食には早い時間なのを確認して、インスタントのスープでも作るかとベッドを出た。
 ヒル魔がカップ片手に寝室に戻ると、閉めたカーテンの隙間から見える薄闇に積もった雪がぼんやり光るのが見えた。
「・・・ヒル魔さん?」
 眠そうな声のセナが隣にいるはずのヒル魔を探して手をパタパタさせていた。
「こっちだ」
「おはようございます」
 ヒル魔を見つけたセナは目が覚めきっていない顔でフニャンと笑った。
「外、雪積もってるぞ」
「あー、寒いと思ったら」
 そういうとセナは掛け布団を肩までひきあげて目を閉じた。
「起きないのか?」
「・・・もうそんな時間?」
「いや、まだ早い。雪見なくていいのか」
「見たっていい事あるわけじゃないし・・・」
 セナはそう言うと丸まって布団にもぐってしまった。
 はしゃいで起き出すかと思っていたヒル魔はなんとなく拍子抜けする。
子供っぽい時もあれば、大人びた面も見せたりするセナ。セナが予想と違う顔を見せるたびにヒル魔は感じたことのない感覚に襲われたが、それが不快感に繋がる事は不思議となかった。
 スープを飲み終えたカップをサイドチェストに置くと、もぞもぞと布団が動き、セナが目をのぞかせた。ヒル魔を見て、ここ、こことばかりに枕を叩く。
 体が温まったのでヒル魔の眠気は去っていたが、居心地の良さを求めてセナの横に潜り込んだ。
「手の甲が冷えてますよヒル魔さん」
「キッチンまで暖めてなかったからな」
 くっついてきたセナがヒル魔の手を頬に宛てる。
「雪、まだ溶けませんよね」
「なんだ。興味ないんじゃなかったのか」
「だって出かける時とか困るから好きじゃないんですよ」
 確かに雪が降って嬉しい事といったら臨時休校くらいたが、授業の追加や部活もできないとなればマイナス面が大きく感じてしまう。
「眺めるだけなら嫌いじゃないし。それに」
 小さくあくびをしながら言葉を切ったセナに続きを促す。
「それに?」
「ヒル魔さんと一緒にいられたらどんな雪も好きになれるかもしれないし」
 うっとりと呟いて目を閉じたセナを見つめる。続きを待ってみたがセナの呼吸は寝息のリズムになっていた。隣にあるぬくもりに誘われたのか眠気が訪れた。
 セナの言葉に胸の内があたたかくなり、こんなささいな事に反応するようになった自分がこそばゆい。
「ん〜・・・」
 肩が寒いのかセナが擦り寄ってきていた。上掛けを引き上げてやると、セナの口元に微かな笑みが浮かぶ。
「俺も同じだって聞いてから寝ろよ」
 起きた時に言ってやったらどんな顔をするだろう。予想通りでも予想外でも可愛いに違いないと思いながら、もう一度目を閉じたヒル魔だった。



                                      Fin.

                                  2008.02.02



玄関を出て積もった雪見て
思いついたはいいけど
なにが書きたかったのかなワタシ・・・
いちゃいちゃしてるのが
書きたかっただけか〜