「指先から始めよう」
もみもみもみ。
「エラくご機嫌じゃねーか」
「嬉しいに決まってるじゃありませんか」
もみもみもみ。
「同じモンばっかだろ」
「どれも全部違うじゃないですか」
もみもみもみ。
「どれもシャーペンだろ」
「柄も長さもくれた人も違いますよ」
もみもみもみ。
練習後、ふとまもり姉ちゃんが思い出して言った。
「やだ、今日ってセナの誕生日じゃない! ケーキの用意してなかったわ。ごめんね、セナ?」
毎年の誕生日にはまもり姉ちゃんが作ってくれたケーキを囲んでお祝いするのが恒例だったけど、今年は目の前の試合に向けて忙しくって、それどころではなかったんだろうな。
「いいよ、もう子供じゃないんだから」
自分の誕生日だから忘れてはいなかったけど、僕も試合の方が大事だったし。
けど、予想外のところから反論がきた。
「セナ、今日誕生日なのか? なんで言わねーんだよ」
「え、だってモン太も特に言ってなかったし」
お互いの誕生日なんて聞いたことなかったよね?
「そうだね、練習練習でそんなの気にした事なかったからね」
栗田さんが大きな身体を揺らして笑ってくれた。
改めて聞いてみると、僕と小結君と雪さん以外はみんなもう誕生日を過ぎていた。せっかくできた大事な仲間たちの誕生日、おめでとうくらい言いたかったな。
「よしセナ、お前シャーペン壊れたって言ってたよな?」
「モン太?」
カバンをごそごそ探っていたモン太が出してきたのは。
「お前コレ見て面白いって言ってたじゃねーか。やるよ」
ニカッと笑って手の中に押し付けてきたそれは、どこで買ってきたのか『○ザールでござーる』のガラのシャーペンだった。
「モン太だって大事にしてたじゃない。もらえないよ」
押すたびにガラが変わるのを見ては、楽しそうにしていたモン太。もらえないよ。
「気に入ってたさ。だからセナにやるんじゃないか。自分が気に入らないもんをプレゼントなんかしないだろ」
・・・友達からのプレゼントなんて、もしかしたら初めてかもしれない。
「誕生日おめでとうな、セナ」
「うん、ありがとう」
もらったペンを握りしてめいたら、横から別のペンが出てきた。
「ほらよ、これもやる」
十文字君?
「サルにばっか良いカッコさせらんねーからな。それよりゃ上等だぜ」
新しく手に乗せられたペンは大人っぽくって、なんだかシャーペンじゃないみたいだった。
「ホントにいいの?」
「別にペンの1本や2本、くれやっても俺は困しゃしねーよ」
「よっ、ジューモンジ君太っ腹だね」
「オメーの方がよっぽどカッコ付けだろ」
黒木君と戸叶君がふざけて小突いたりするのをうるさそうに払いながら、十文字君はどこか照れたようにそっぽを向いてしまった。
「ありがとう十文字君、大切に使うね」
「じゃ、俺はコレやるよ」
「ほいよ」
黒木君が出してきたのは裸のオネエサンが描かれたペンで、戸叶君はアメコミ風なキャラクターが描かれたペンをもらってしまった。
栗田さんは特注で作ったみたいな太いペンを、小結君は反対にとても短いペンをくれた。「僕のが一番普通かな」と申し訳なさそうに雪さんも自分が使ってるペンを渡してくれた。一番普通かもしれないけど、頭が良くなるご利益がついてる気がするって言ったら、皆怒るかな?
まもり姉ちゃんは皆に囲まれた僕を見てニコニコ笑ってる。
手の中にいっぱいになったペンを握り締めていたら、
「終わったか? さっさと帰れよテメーら」
と、ヒル魔さんから声がかかった。
「ヒル魔はセナ君にペン、あげないの?」
「糞オヤジだってやってねーだろ」
「人をドケチみたいに言うな。やってもいいがな」
そう言いながらムサシさんが出してきたのは「シャーペン」ではなく「鉛筆」だった。(しかもナイフで削ってるみたいだった)
「俺はコレが馴染んでるからいいけどよ、こんなんもらったってセナは困るだろう」
確かに鉛筆削りで削るならともかく、ナイフなんかでやったら自分の手を削ってしまいそうだ。
「いいですよ、気持ちだけで嬉しいですから」
お互い顔を見合わせて苦笑いしちゃった。
「で、あげないヒル魔君はドケチって事よね」
どこかイジワルそうに笑うまもり姉ちゃんは妙に楽しそうでちょっと怖い。
「やめてよ、まもり姉ちゃん。そんなの無理にしてもらう事じゃないんだから」
「と、糞チビが言ってんだから問題ねーよな」
もー、ヒル魔さんも煽らないで下さいよ・・・
「わぁ、こんなに時間たっちゃったんだ! そろそろ帰ろうよ!」
・・・明らかに棒読みだったかな。でも時間がたっていたのも確かだったので、慌てて支度を済ませてそれぞれ部室を出て行った。
「さ、セナ、帰りましょ」
「糞チビはまだ仕事があんだよ」
「セナをそんな風に呼ばないで! 仕事がまだあるなら私が明日朝一番にやりますから」
「糞マネの仕事じゃねー」
「私の名前もそんな名前じゃありません!」
「ま、まもり姉ちゃん、僕なら大丈夫だから、ね? ね?!」
あの後なんとか帰ってもらったが、思い出したら気分がモヤモヤしてきた。
「もぅ、分かっててまもり姉ちゃん煽らないで下さいよ」
「ケケケ、知ったこっちゃねーな」
もみもみもみ。
「それにテメー、コレを糞マネにやらせていいのかよ」
「絶対譲りません」
きっぱりと言った僕に、ホラ見ろとばかりに笑うヒル魔さん。
残った僕の仕事とは『ヒル魔さんへのハンドマッサージ』だった。
「テメーがさっさと言わないから俺が言ってやったんだろ」
「そうです、僕がマッサージさせて下さいってお願いしたんです。いつもアリガトウゴザイマス」
「感謝の気持ちがこもってねーぞ」
握った手を放せないため、分かっていたのにデコピンを避けられなかった。いーたーいーよー・・・
それでも僕はマッサージの手を休めなかった。
なにか出来る事をと必死に考えた結果が「コレ=ハンドマッサージ」だったんだもん。
僕が足を大事にするように、ヒル魔さんも手を大事にしてる。皆にも気付かれないくらい軽く足をひねった時、ヒル魔さんだけが気付いてわざと残らせた僕の足をマッサージしてくれた。・・・ちゃんとケアしろってお説教付だったけど。
そんなヒル魔さんが自分のケアに手を抜いてるとは思わないけど、僕に出来ることなんてほとんどなかったから、やらせて下さいと頼み込んだんだ。
でも、コレを始めてからずっと気になってる事があって。
「ヒル魔さん」
「うん?」
気持ち良さそうに預けてくれてる手の先。
「本当は、僕のマッサージなんて要らなくないですか」
「テメーがやらせろってきたんだろ」
「だって・・・」
ヒル魔さんの手が荒れてる所なんて見た事ないし。爪なんか磨いたわけじゃなさそうなのにツヤツヤしてる。
「なんでそう思った」
「ヒル魔さん、自分で何でもできるじゃないですか。僕がしなくったって荒れてる所見た事ないし」
「まぁ自分でもやってるけどな」
ほら、やっぱり・・・
「気分いーんだよ」
「え?」
「テメーに大事にしてもらってるって思うとな、気持ちいいんだよ」
大事ですよ。だって、僕らを、僕を、前へと連れてってくれる大切な手ですよ。ちょっと乱暴だけど、強くて、でも僕に触れる時はとても優しい・・・
「それにな、荒れてガザガザになった指だと痛いだろ」
「確かに痛そうですけど」
「俺じゃなくって、テメーが」
ニヤリと笑って言われた言葉の意味が分かった途端、自分が真っ赤になったのが分かった。
「でもあれだな、ガサガサの方が刺激になっていいかもナ」
のぼせそうになって口をパクパクさせる僕を見て、ますます楽しそうに言葉を継ぐ。
「今度試してみるか」
「試さなくっていいです!!!」
「なんだ、つるつるの方が好みか?」
「そんなの知りません!!!」
意地悪だ!!!
終わりとばかりに握っていた手を放して立ち上がった。カバンをつかんで帰ろうとすると、空いてる手をつかまれ引き戻される。
ぽすんと胸の中に抱き込まれてしまうと、居心地が良くて抜け出せなくなってしまう。やっぱり意地悪だ・・・
「機嫌直せよ」
「耳元で言わないで下さいっ」
「なんでだよ? ん?」
腰にクルからとは恥ずかしくてとてもじゃないけど言えない。・・・多分バレてるだろうけど。
「HappyBirthday、セナ」
ヒル魔さんはそう言って、手になにか握らせた。
そっと手を開いてみると。
「・・・ヒル魔さん、僕、女の子じゃないんですけど」
少々声が尖っていたかもしれない。
手の中に包み込んでしまえる容器は、僕には女の子がつける化粧品にしか見えなかった。これ、なんていうんだっけ。
「よく見てみな」
面白がるように言われるのが面白くなくって、でも見ない訳にもいかなくって。表面に書いてある(多分)英語に目を凝らしてみると。
「・・・オイル?」
「確かに化粧品かもしれねーけどな」
キューティクル・オイルと書かれたそれは、爪のケア用品だという事だった。ハンドクリーム以外にもこんなのがあったんだ。
でも見た目はやっぱり女の子がもってるのみたいで抵抗があったけど、「俺とお揃いだぜ」と言われて、帰ったらさっそく試してみようと握り締めてしまうあたり、僕ってばさ・・・
お風呂上り。もらったオイルを少し塗って爪先を揉みながらため息をついた。
試しついでに塗ってやるとヒル魔さんに言われたけど、丁重に、というか逃げるようにお断りして帰ってきちゃった。
だって、なんか、マッサージだけじゃすまなさそうな目付きだったし。試合前に無茶な事はしないと思うけど。というか、そんな事されたら僕がすまなくなっちゃいそうだし・・・
まずは迫ってる試合に向けて全力を尽くそう。
・・・お正月に泊まりに行った時にでも塗ってもらおうかな。
Fin.
2006.12.20
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ちょうど1ヶ月ぶりの更新ですね。
時期に引っ掛けたらセナ誕になりました。
・・・無理やり・・・
ネイル塗りあいする2人って
可愛い? キモイ?

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