『年越し』


 両親と一緒に年越しそばを食べて、紅白を見る。
 小早川家は、ここ何年も変わらない大晦日の過ごし方で今年を終えようとしていた。
 変わった事と言えば、セナが年末まで動き回っていた事と、年明けの予定もつまっている事である。
 そばを食べ終わったセナは、明日早いからと早々に部屋に引き上げて行った。
「明日は部活のみんなと初詣だって?」
「そう言ってたわよ。その後、まもりちゃんやあの元気の良いお嬢さんとどっか行ったりしないのかしら〜グフフ」
「おいおいおい」
 そんな両親の会話を知らないセナは、目まぐるしく過ぎて行った今年を振り返って自室でぼんやりしていた。

 思い返せばあっという間に駆け去った日々は、なにもかもが生まれて初めての事ばかりだった。だけど、あんなにたくさんの出来事があったのにどれも色褪せる事なく甦ってくる。
 期待だったり不安だったり、嬉しい事楽しい事、悲しみも苦しみもあった。焦りや怒りでパンクしそうになるなんて、1年前の自分には想像も出来なかった。思い出すだけで胸がいっぱいになる。
 泣き出したり叫びたくなる程に込み上げてきた想いを目を閉じてやり過ごした。

 気がつくとどこからか除夜の鐘が聞こえてきた。思いの外時間がたっていた事に驚く。
 その時、握りしめた手の中で携帯が突然ふるえだした。
 びっくりした拍子に落とした携帯を拾いながら、セナはいつの間に手にしていたのか覚えがなかったので、一体どれほど深く考えこんでいたのかと自分に笑ってしまう。
 メール受信を知らせるバイブはすでに止まっていて、改めて誰からのメールだろうかと見てみると
「ヒル魔さん?!」
 やっぱり明日の初詣には行かないなんて言ってきたのかと思えば、画面に並んでいるのは単語だけで。
『おう。おやすみ』
・・・意味不明。
 いや、意味は分かるが、どうしてこんなメールが?
 もしかしてと送信履歴を開くと、少し前に送ったヒル魔宛のメールがあった。
 ぼんやりしていた間に自分は何を送ってしまったのかと慌てて開くと、やはり単語だけの短いメールで
『ありがとうございます。おやすみなさい』
 と残されていた。
 微かに聞こえる除夜の鐘が年の終わりを告げる中、さっきまで自分をいっぱいにしていた気持ちが甦ってくる。
 苦しかったり悔しかったりもしたけれど、自分の足で進んでこれた。小早川セナを認めてくれた人達がいた。

 ありがとう。
 いろんな人に、いろんな事に、今の自分にしてくれた全てに感謝を。
 そして、きっかけを与えてくれた彼の人に最大の想いを。

 伝わったと思うのは自惚れだろうか。返ってきたメールから、受け止めてくれたと感じるのは。

 いつの間にか鐘も鳴り止み、階下から新年を祝うテレビの音が聞こえてくる。
 寝ぼけた顔で行ったりすると、新年早々からかわれるのは目に見えている。その場だけで済むなら良いがそうならない事もままあるのだ…
 気分が高揚していて眠れないかと思ったが、布団をかぶると心地よい眠気が体を包んでいった。
 『おやすみなさいヒル魔さん。新年の挨拶は、会う時までとっておきますね』
 枕元に置いた携帯に触れながら、セナは眠りの中へ落ちていった。



                                    2006.12.31

                               Fin.


年末はひっそりとがいいですか?
にぎやかにがいいですか?
私はこじんまりですかね(笑)