『 素敵ポーズ 』




ヒル魔さんはいつだって唐突だ。
今も紙をピラピラさせて「糞チビ、これやってみろ」と言ってきた。
「朝練の追加メニューですか?」
なにげに受け取ったが書かれたそれは予想と全く違って、ちょっと昔懐かしい感じのキャラクターが奇妙なポーズで立っている。。
「なんです、コレ?」
「テメーはホントに物知らずだな」
「すみません…」
でも知らない物は知らないとしか言えないし。
「柔軟のポーズとか?」
「いいからしてみろ」
一言で腕を組んだヒル魔さんが迫ってくるとハイとしか言えないよねぇ…。
「えーっと」
カジノ台に紙を置いて横に立つ。片腕が頭の上でー、もう片方がお腹でー。
そうしてなんとかチャレンジしたものの。
「このポーズで片足立ちって難しいですヒル魔さん!」
「…んじゃバランス練習だと思え」
「いま思いついたでしょ!」
「やれっつったら、やれ」
「だから難しいんですって!」
ヒル魔さんのことだからちょっと違ってもやり直しさせるに決まってる。
腕の高さとか足の向きとか必死になって真似してみたけど。
「ヒル魔さん、コレ苦しい!苦しいよ!」
よく見ると爪先立ちまでしてる。立ち続けられなくて、ぐらつく勢いのまま座り込んだ。
「なんですかコレ?柔軟でもバランスでもないでしょ?」
息を切らしながら訴えた。部分的には柔軟やバランスかもしれないけど、ずっととり続けるにはかなりキツいポーズだよ。
「ギャグマンガのポーズ」
「……はい?」
「簡単そうに見えたからよ」
だからって僕で試さなくてもいいんじゃないかな…
この際一瞬でもいいとの寛大な(?)ヒル魔さんのお言葉に渋々立ち上がる。そんなに見たいならとほだされたのと、言い出したら引かないヒル魔さんへの諦めの気分で。
そしてチャレンジすること数回。だいぶヒル魔さんの理想に近づいたっぽいのが表情から感じるんだけど。
「んー、あと1つ」
「スーツなんて持ってませんよ!」
キャラクターはスーツを着てるけど何故かサラリーマンには見えなくて。いやいや、そんなことより!
「なんですかあと1つってっ?」
「出っ歯」
なに考えてんのこの人?!
「おい、座って良いとは言ってねーぞ」
ポーズを解いて座り込んだ僕をヒル魔さんがつっついた。
「歯って急には伸びませんから!そんなの無理に決まってますよね!」
「ポーズも歯も出来ないことばっかだな」
「うぅ〜」
不自然に伸ばしたあちこちをさすりつつ見下ろしてくる人の目を見る。それに普段から僕の体が硬いと言ってるのはヒル魔さんなんだから、無理だって分かってくれても良さそうなのに。
…なんだかムカムカしてきたぞ。難しいポーズをとらされて、頑張ったのに鼻で笑われて。
「ならヒル魔さんは出来るんだ〜。手の向きだって足の角度だって完璧に!僕に細かく指摘するんだから出来て当然ですよね〜」
「テメー…」
「ヒル魔さんがやってくれたら、ソレを手本に頑張りますよ?…あれ、もしかして出来ないとか?僕にあれだけ出来るって言ったのはヒル魔さんなのに?」
「……」
…怖い。正直怖い。静か過ぎる無言も増えてく眉間のシワも直視できないくらい怖い。
でももう止まらなかった。
どうせ出来ても出来なくても後でからかいのネタにされるに決まってる。結果が変わらないなら今スッキリしてしまいたい。「たいそうな事言ってくれるじゃか。ちったぁ度胸ついたみたいだな」
…多少意地悪度が増す覚悟が必要だったけど。
「そんなに見てぇなら見せてやる。目に焼き付けとけ」
そして、気合いの一言とともに完璧なポーズが決まった。
ガラガラガラッー
「っはよーっ……す……」
僕以外のデビルバッツメンバーの目にもヒル魔さんの素敵ポーズが焼き付けられた瞬間だった。


そして夜。ヒル魔さんちにお持ち帰りされた僕は、例のポーズの他にもイロイロなポーズをとらされることとなった。
…皆が見ちゃったのは僕のせいじゃないのにぃー(涙)



                                2011.1.21

                      Fin.




衝動的に書いてしまいました。
だって見ちゃったんだもん・・・(笑)
それにヒル魔さんなら完璧目指しそうじゃないですか!
「例のポーズ」が分からないお嬢さんはいない、よね?