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傷痕
俺を傷つけられるのはたった一人。
「アニキのイレズミ、カッコイイなぁ」
カミナの上半身に描かれた蒼い炎を見つめて、シモンはうっとりとつぶやいた。
「男の主張ってやつだな」
笑って髪をすいてくれる大きな手がシモンは大好きだった。
シモンにとってカミナは何にも代えがたい存在であり、全てといってもよかった。
側にいたい。
少しでも近付きたい。
ちっぽけな自分にできる事なんてたいしてないが、カミナに必要とされていたい。
確かにグレンラガンになるには自分が必要だ。相棒だとも言ってくれる。だが、ガンメンに乗って戦うのは生きるため。
そうではなくて、シモンは『カミナ』に必要とされたいのだ。 事後特有のけだるさに身を委ねつつ見上げる背中は大きくて、回りきらなかった腕が少し悔しい。
「俺もイレズミしたいな。アニキみたいなの。そしたら強く見えるかな」
そうしたら、少しはカミナに近付けるだろうか。ぼんやりした呟きに、
「やめとけ」
と、やけにキッパリした口調が返ってきた。
「そんなん無くったって、お前は強いし格好いいからな!」
カミナはそう言ってシモンの頭を軽く叩いた。
そんな事あるはずない。
体も考えも何もかも小さい自分を知っている。情けなくて目頭が熱くなる。
でも。違うと分かっていてもカミナがそう言ってくれた事が、涙が出そうな位嬉しい。
どちらの涙も見せたくなくて、カミナの脇に潜り込んで丸くなる。
「もう寝ちまえ。寝ないと大きくなれねぇぞ」
「寝ようとしていた所を起こして付き合わせた人間の言うセリフじゃないよ、アニキ・・・」
「そうだったか?」
悪びれない態度ににじんでいた涙もひっこんだ。
「おやすみアニキ・・・」
肩に回された腕に抱き寄せられながら、シモンはカミナの声を夢うつつに聞いた気がした。
「・・・お前に傷なんて、誰にも付けさせねぇよ」
そう言った貴方が俺の唯一の傷痕。
Fin.
2008.
9.13
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