待っているのは
布団の中の温もりから出るのに気合いが必要になってきた季節。眠い目をこすりながら起き出したセナは、ひんやりした空気にブルッと身震いした。
階段を降りていくと、パンの焼ける良い匂いがしてくる。
「おはよう母さん」
「おはようセナ」
セナの席に香ばしい香りのパンが置かれた。
「まだ食べるなら自分で焼いてね。卵は?」
「ふたつー」
フライパンを手に聞いてくる母親に答え、セナは冷蔵庫から牛乳を取り出した。まだ開ききらないまぶたをこすると、大きなあくびが出てきた。
新聞紙の向こうから顔を覗かせた父親に笑われた。
「眠そうだなセナ」
「ははは…そりゃね」
体力気力をフルに使う時期なので、いくら寝ても寝足りない。しかし、寝坊せずに起きられるようになっただけ成長したのだとセナはしみじみと思う。(鈴音あたりが聞いたら鼻で笑われるだろうが)
牛乳をコップに注ぎ、いただきますと手をあわせて食べ始めたセナに、母親からいつものお伺いがかかる。
「晩御飯どうするの?」
友人達の顔を思い浮かべ、約束も何もないよね、と照らし合わせる。
「んー、うちで食べるよ」
「じゃあ何か食べたいものある?」
「食べたいもの?特にないけど」
食事の有無は聞かれ慣れているが、あまり聞かれない問い掛けにセナは首をかしげた。
「張り切り甲斐のない子ねぇ」
きれいにならんだ目玉焼きを置いた母親の大袈裟っぽいため息に、何のことかと思っていると、新聞をおろした父親が教えてくれた。
「今日はお前の誕生日だろう」
おめでとうと微笑まれ、やっとセナは今日が何日かを思い出した。
その日セナは、次々やってくるバースデーメールに返事を出しまくるという1日を送ることとなった。
返信を打つ間にも振動が次の着信を知らせてくる。
「おめでとう」や「次は試合で会おう」と書かれたメールは素直に嬉しかった。が、「やっぱり僕からもバースデーメール送ったほうがいいのかな…」と思うと、その多さにめまいをおこしそうだ。そんなことを言っては周りに笑われたり。なんだかずっと笑っていた気がする。
あと「僕、メアド教えたっけ?」な面々も若干混じっていたのが不思議だった。もちろん返信はしたものの、かなり文面に唸るはめになった。アドレス登録を悩みつつ、それらはいったん保留となっている。
受信画面と返信画面をチェックし、全てのメールに返信したことを指折りで確認し終えたのは、そろそろ日付も変わろうかという時刻だった。
ベッドの上で丸まっていたせいか、携帯を手に伸びをする、とガチガチだった背中がギシッと鳴った気がして笑ってしまった。
ゆっくり下ろした指先から携帯が転がっていく。それをぼんやりと目に写し、セナはメールを打ち続けて痛みを感じ始めた右手を揉んだ。
すでに家族も寝静まり、夕飯の後にまもりが持ってきてくれたケーキを囲んでいた時の賑やかさが嘘のような静けさである。
ベッドの上に足を投げだす。壁に背を預けて今日を振り返った。
届いたたくさんのメールや増えていくアドレス帳。アメフトを通じて広がった世界や出会えた人々。嬉しいと、幸せだと、胸がじんわり暖かくなっていく。
その心地よさとともに瞼が上下からくっついて夢の世界へ連れていこうとする。だがセナは首を振って眠気をはらった。
壁にかけられた時計の針に目を向ける。長針が短針に重なるまであと少し。
その時、マナーモードの携帯が震えた。
手を伸ばしてつかみ取った時に振動は止まったが、メール着信を知らせるランプがチカチカと光っている。
受信ボックスに1件の新着メールが届いていた。
件名もないメールをセナはずっと待っていたのだ。
メールを開けたセナからほんわりとした笑顔がこぼれる。
照れだったり苦手だったりで、気持ちを言葉にするのも態度に出すのも少ない自分達だから、メールも用件だけの簡潔ものばかりだ。それを不満に思ったことはないけれど、言いたくないわけじゃないしもらえれば嬉しいに決まってる。
「おめ」とだけ書かれたメール。ヒル魔がどんな顔をしてこのメールを打ったのか、それを想像するとくすぐったくてたまらない。
なんて返そうかと考えているうちに、返信画面の上で日付は変わっていた。
しばらく悩んで、タイトルに「ありがとうございます」、本文はヒル魔にならって一言だけのメールをエイッとばかりに送信ボタンを押して送り、完了画面になると同時に携帯の電源を落とした。
その勢いで部屋の電気も消すと、セナはガバッと頭から布団を被る。
ふかふかの布団の中で、眠らなきゃ、眠らなきゃと思うのに。必死に羊を数えてみても、途中で数え間違えてかえって頭が冴えてしまう始末。
セナが眠れない理由なんてひとつしかない。メールに書いてしまった単語に、送った後からジワジワと恥ずかしさが込み上げてきたからだ。
おかげでさっきまで感じていたはずのぬくぬくした眠気など吹き飛んで、今はひたすら暑い。握ったままの携帯もセナの熱が移ったように熱い。
しばらく無駄にあがいてみたが、今更ジタバタしても仕方ないと諦めた。ため息をひとつつくと、セナは布団の縁から顔を出した。
握りしめていた携帯をそっと枕もとに置く。
今は沈黙している携帯。朝になって電源を入れるのが楽しみなような怖いような。
寝不足の目をこする自分を予想しながら、なんとかまぶたを閉じるセナだった。
Fin.
2011. 12. 1
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12月はセナのお誕生月!
早いなんて気にしない!
イメージ的に大学に入ってからなんですが、
セナだけがこんなに祝われてるのもおかしくないか?
そうだ、炎馬ではこれをきっかけに
月に一度、お誕生会をするようになるとか!
幼稚園みたいだね!

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