Thunder shock
「恭ー弥ーっ、MerryX'mas!」
騒がしい足音の後に、ノックもせずにドアを開け、机の前に立った人は綺麗な発音の英語で挨拶をした。
廊下は走らない。
ドアはノックする。
何度も何度も言ったのに守られた試しがない。『これだけ口すっぱく言ってるのに』とこぼしたら『文句言ってる恭弥も可愛いなぁ』と笑われた。それ以来、言うのを止めた。無駄なことだと悟ったからだ。
「…イタリアでもそう言うの?」
ちらりと見たドアは壊れていないようなので、気になったことを優先する。
「ん?イタリア語だとBuon Natale」
「ふーん」
合言葉のような全世界共通というわけではないのか。ひとつ頷いてキラキラと目にやかましい入室者に顔を向ける。
「座れば?」
雲雀からの滞在の了承をもらってニコニコのディーノは、後ろ手に持っていた袋を机に置いた。
「いい子の恭弥に俺からプレゼントだ」
「サンタからじゃないんだ」
「選んだのも買ったのも俺だからな。恋人の喜ぶ顔が見たくてしたのに、サンタに譲るなんて誰がするかよ」
確かに雲雀はサンタからと言われても、素直に喜ぶ子供ではない。が、
「志願って抜けたよ」
さらりと言われたセリフに訂正を入れる。『恋人』ではなく『恋人志願』。雲雀はディーノをそう表する。
「チェック厳しいぞ」
「文句は煮凝り零さず食べられるようになってから言いなよ」
『懐石料理を綺麗に食べる事』
恋人になってとうるさいディーノに雲雀が出した課題だ。
来日の度にチャレンジしているディーノだが、突き出しから零しまくりで、『恋人』への道程はかなり険しいようだった。
「で?中身はなんなの」
くれるというならもらってやってもいいが、くだらない物だったら受け取り自体を拒否してやると暗に匂わせる。
「これなら恭弥も気に入るって!」
ディーノはプレゼントをX'mas仕様の袋から取り出し広げると、ふわりと雲雀の首にまわしてかけた。自らの選択に満足げに頷く。
首に巻かれたマフラーに雲雀は目をみはった。部屋の空気が揺れた気がして不思議に思うも、ディーノは目の前の驚く『恋人』を優先する。
「うん、似合ってるぜ恭弥」
風邪ひきやすい恭弥にピッタリだろと自信満々で胸を張るディーノ。だが雲雀の反応は予想を超えた。
「ふうん… あなた、僕にマフラーなんて勇気あったんだね」
「へっ?」
緩く巻かれたマフラーの肌触りを確認するように指を当て、雲雀がにこりと笑った。
今度は激しく空気が揺れた。
さすがのディーノも無視できずに後ろを見渡す。そこには、青ざめた草壁以下、同様の表情を貼り付けた風紀委員数名の震える姿があった。
実は彼らは最初から居た。居たのだが、雲雀もディーノも気にしなかった。雲雀は別段見られて困ることはしていないと判断していたし、ディーノに見られて恥ずかしいという観念の持ち合わせはなかった。
草壁達も心得たもので、毎度押しかけるディーノには当たり障りなく対応し、雲雀の動向にだけ注意を払い行動する。雲雀の教育の賜物だと常々ディーノは感心していたのだ。
そんな彼らが明らかにうろたえている。理由が見えないだけにディーノもどうしたらいいのか分からない。
「い、委員長っ、書類の整理すべて終わりましたのでっ、退出してもよろしいでしょうかっ」
草壁のこんなに上擦った声を初めて聞き、ますます危機感が募る。
「かまわないよ」
「でっでは、お先に失礼しますっ」
あぁ、一緒に「お邪魔しました」と言ってしまいたい…。だが、それを雲雀が許すとは思えない。
冷や汗を感じながらそっと向き直ると、そこには見たことのない雲雀がいた。
………綺麗な微笑みを浮かべた恭弥なんて夢だ………
先程まで自身を震わせていた危機感も忘れ、フラフラとディーノの足は前に進む。
夢見心地のまま抱きしめようと指を伸ばしたその時。
バチッ
「痛ってーーーーっ!!!」
あまりの痛みにうずくまり、涙目になるディーノ。
何が起こったのか頭が回らない。見上げると緩やかなカーブを描いていた口端がキュッと上がっている。それだけで天使が小悪魔に変わるのだから、人間とは恐ろしい。
まだ思考が追い付かない様子のディーノがそう思ったかは分からないが、今の雲雀は明らかに楽しんでいる。ディーノにしては嬉しくない方向性で、だ。
「どうしたの、いつもみたいに抱き着いてこないの?僕は今、機嫌がいいんだ。特別に許してあげるよ?」
初めて見る笑みに初めての許しを得て、催眠にかかったように再びディーノの手が伸びる。
バチバチバチッ
「っっっ〜〜〜〜〜っ!!!」
目から火花が出たかのような激しい痛みに、ディーノはもはや声も出ない。無言の批難を感じたのか、雲雀の眉が片方だけ上がる。
「何?人のせいだって言うの?教えてあげる、あなたのソレは自業自得って言うんだよ」
痛みが落ち着き見上げたディーノを小馬鹿にしたような雲雀が見下ろしていた。
「どうやら僕は静電気がたまりすいらしくてね」
そう、スタンガンかと思った衝撃の正体は、冬の風物詩(?)静電気だった。
生地の組み合わせ次第では夏場でもパチパチとさせてしまう。しかもかなり強烈、らしい。他人事ではないだろうと言われそうだが、人との接触だった場合、相手は結構な痛みを感じているのに雲雀本人には『パチッ』程度にしか感じられないのだから仕方ない。
しかも恐ろしいことにこの静電気、有効範囲が広いのだ。肌が触れなくても服の端に近付くだけで小さな雷が走るから、いつも以上に距離をとらなくてはいけない。さらに雲雀の機嫌いかんにより静電気は放電まで始めてしまう。風紀委員達の動揺は雲雀のこの体質を知っていたが故のものだったのだろう。
「少しだけど化繊が入ってるみたいだね。でもこの手触りはいいね」
気に入ったよと言われて嬉しい。嬉しいが、泣けてくる。
贈ったマフラーはとても恭弥に似合っていて、それを選んだことも気に入ってもらえたことにも満足出来た。だが贈った結果、可愛い人に触れなくなってしまうなんて最悪だ。
「いいものをもらったよ、ありがとう」
初めての感謝の言葉にディーノの胸がつまる。どう差っ引いても『楽しいオモチャをありがとう』としか聞こえない。
「あぁそうだ。後でコレ、外させてあげる」
「えぇっ、マジで?!」
思わず立ち上がり肩をつかむ直前、手に残る痺れが慌てて腕を引っ込めさせた。
「嬉しくない?」
嬉しくないはずがない。いつも少しの接触ですら拒否されるのに。服(とはちょっと違うが)を脱がせてもいいなんて発言が出るなんて!(←そんなこと言ってない:雲雀)
だが同じ位怖い。マフラーを外す=またあの電気ショックに襲われる、なのだ。
意を決して聞いてみる。
「恭弥さん、自分で外すって選択肢は…」
「痛いから、やだ」
俺だって痛いのは願い下げしたい!
だが喉元まで出かかった言葉をディーノは飲み込んだ。言ったが最後、もう恭弥はディーノからのプレゼントを二度と受け取ってくれなくなる。自分が贈ったものに危険を感じるということは、贈り物が危険物だったといってるも同然。そんな事を認めるわけにはいかなかった。
箸だけでもハードルは高いというのにプレゼントで気を引くことも出来なくなるなんて、どんどん『恋人』から遠ざかってしまうではないか。
「…外させて頂きます。その代わり、ホテルの食事に付き合ってくれるよな」
時間がかかってだるいからと、断られてばかりのホテルの食事に「いいよ」と初めて了承が出た。
「服も俺が選んだのに着替えてくれる?」
「ドレスコード? 持っていれば役立つかもしれないしね」
恭弥は本当にご機嫌らしいがディーノの胸中は複雑の一言に尽きた。無駄かもしれないが一縷の望みをかけてと取ったレストランの予約が生かされるのは嬉しい。けれど、その前に乗り越えなければいけない壁がある。ここはガマンするのが男だろうと思いつつ、やっぱり怖い。
微笑む『恋人』は撫で回したいくらい可愛い。なのに触れることすら難しい。
『恭弥って雷の妖精だったんだな………。クリスマスプレゼントはたくさんの『初めて』をもらえたけど、最後のはいらなかったよ恭弥………』
来年はゴム手袋を用意しようとこっそり誓ったディーノだった。
2008 12.
24
Fin.
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静電気は痛いよ、マジで。
触りたいのに触れない。ツライね、ディーノ(笑)
最初はディーノに「ピカ●ュウ」って言わせるつもりでしたが、
グルグルした結果、もっとイタイ発言になりました。
なんか締まりのないラストですね・・・

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