『 Trick and treat? 』 
       
      
        
          
             
             
             
            「ヒル魔さん、明日の晩御飯なんですけど」 
            「んー?」 
            「僕が作ってもいいですか?」 
             パチン、とガムのはじける音がした。 
             と同時に、まわりの話し声や物音がぴたりと止まる。 
             もたつく着替えとヒル魔の返事に気をとられて、セナは周囲の静けさに気づかない。 
             着替えの手こそ止まっていないものの、その内容に興味津々で全身を耳にしているチームメイトには目もくれず、 
            「テメーの手つきは危なっかしくて見てらんねーんだよなー」 
             ノートパソコンを叩くヒル魔。 
            「そう言って自分だって乱暴なくせに」 
             すねた様に頬をふくらますセナの台詞に、『そうか、銃器と違って刃物は慣れてないのか。いや、乱暴だったらもっと危険だろう』など頭の中でそれぞれ突っ込みをしだす周りたち。 
             というか、ヒル魔が料理する姿など恐ろしくて想像できない。 
             ヒル魔はそんな部員達の様子を横目で見つつ、口元を微かにあげた。 
             
            「テメーは下手だからな。・・・イロイロと」 
             なんだかイロイロの部分が妙に強調されてませんか? 
            「仕方ないじゃないですか。初めての事ばっかりなんですから」 
             頬を染めて呟かないで下さい。 
            「へー、初体験ねぇ。いーんじゃねーの」 
             何がいいんですか、何が! 
            「僕だって何度もすればうまくますよ」 
             何度もすればって・・・ 
            「練習ねぇ。誰が付き合ってくれるんだか」 
             付き合うって? いやいや、料理の話、料理の話! 
            「ヒル魔さん、僕、下手すぎて駄目ですか?」 
             涙声がなんだか、その、別の連想を誘うっつーか・・・ 
            「・・・バーカ、これから俺が仕込んでやるから」 
             ・・・料理、料理、料理の話!!! 
             ヒル魔のかなり危うい言葉選びにグルグル踊らされている部員達がかなり気の毒な状況だ。 
             ましてや彼らは青春ど真ん中の高校生。興味ありまくりのオトシゴロなのである。セナは純粋に調理に関する話をしていると分かっていても、ヒル魔の誘導っぽい言葉の選び方などから別の事を想像してしまう。 
             もちろん、ヒル魔は狙っていたのだが。 
             
            「良かったぁ。じゃあ僕、ヒル魔さん好みになれるように頑張りますね」 
             涙声から一転、花が舞ってるのが感じられるような嬉しそうな声でセナが笑う。 
            「俺好みねぇ。あの程度じゃまだまだ先っぽいな」 
             あの程度ってどの程度? 
            「そりゃヒル魔さんから見たら危なっかしいかもしれませんけど。僕だってテクニックを磨けばそれなりになりますよ」 
             あの・・・セナさん、テクニックって・・・ 
            「テクを磨いてやるのはかまわねーけどよ」 
             テクは自分で磨くもんじゃ、いや相手が要るのか、料理に相手は必要か? 必要だよな? っつーかホントに料理の話だよな?! もーどっちだかわかんねー!!! 
             ちょっとしたイタズラ気分だったのに、あまりにも見事にひっかかった部員たちのグルグルっぷりが伝わってきて、顔には出さないもののヒル魔はかなりご満悦だった。 
            「いつだって俺が支えてやっから。怪我なんかさせねーよ」 
            「ヒル魔さん、いつだって優しいですよ」 
             ゲロ甘なセリフに聞いてる一同は全身に鳥肌を立てた。 
            「で、晩御飯なにが食べたいですか?」 
            「テメー」 
             
            『誰かこの会話を終わらせてくれっ!!!』 
             
             そんな心の叫びが届いたのか、部室のドアがガラリと開けられた。 
            「ヒル魔ー、出してきたよー。アレ、みんなどうしたの?」 
             部誌を提出してきた栗田の不思議そうな声で、部員達の硬直がとけた。着替えは終わったものの、動くに動けなかったのだ。 
            『あぁ神様仏様栗田様っありがとう、ありがとうっ』 
             心の中でみな手を合わせて栗田を拝んだ。 
             この先輩がいてくれて、よかったと涙を流して喜ぶ部員一同。もちろん心の中でだが。 
            「なんでもねぇよ。オラ、さっさと帰れ帰れ」 
            「うん。さ、みんな帰ろうか」 
             栗田に促されて疲れきった部員達が動きだす。セナもノロノロとバッグを手にしたが「糞チビは残れ」の一言に満面の笑顔になった。 
            「まだそいつには話があるからな」 
            「そうなの?じゃセナ君お先に〜」 
            「はい。お疲れ様です」 
             笑顔で皆を見送るセナと、ノートパソコンから顔を上げないヒル魔。二人を残して部室のドアが閉められた。 
             
             その後、開放された気分で帰り道を歩く面々だったが、誰かがポツリと呟いた。 
            「部室に残らせるような用事ってあったか?」 
             ばっかだなー、そんなの知るかよと言ってしまえば終わりだっただろう。言った方もそれを期待しただろう。 
             しかし続いたのは考え込むような沈黙だった。 
            「道具は片付け終わってたし、掃除もマネージャーがしてるから特に急ぐ事じゃないな」 
            「庶務の仕事もあるだろうけどよ、セナに出来そうな事ならあの悪魔が終わらせてそーだし」 
             そしてまた沈黙。 
            『それじゃ、話って、何?』 
             よせばいいのに自ら墓穴を掘った彼らは、再び悶々としながら夜道を歩く羽目になったのだった。 
             
             
             
                                            2006.10.13 
             
            
                                  Fin. 
             
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      こんなタイトルですが、ハロウィン物じゃありません。 
      というか、タイトルも違うしね(笑) 
      携帯に残ってた一部を 
      こねまわしたらこんな感じに。 
      ちょっとセリフいじろうかと電車内で考えてたら 
      顔がゆるんできて大変でした。 
      ご機嫌っぽいヒル魔さんが書けて私もご機嫌ですv 
       
       
       
       
        
       
       
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