|
体勢と耐性と態勢と
所々が虫喰いになった問題文をにらみつけてウンウン唸るセナ。赤い下敷きの下で隠されたページが明日の小テストに出るらしい。
「なに次のページめくってんだよ」
ピシッとセナのおでこにデコピンを食らわす。 「いたっ!だ、だって分からないから」
額をさするセナに腰を屈めて近づく。 「下敷きズラせ。てか覚えてねーのに次進むな」 「うっ…バレてました?」 「バレるもなにも」
上から見ているヒル魔に気付かれないほうがおかしいと思わないのだろうか。唸りながら首をかしげ、眉間にシワを寄せた顔のどこを見ても『理解した』と判断はできない。 「覚えるまで何度でも見ろ」 「はーい…」
ヒル魔に向かって上げられていたセナの視線がまた問題文に落とされる。
持ち上げていた問題集を膝に置き、見ては隠してを繰り返すセナ。背筋を伸ばしたり前傾したりとせわしない。落ち着いて読めと言っても、セナも無意識で動いているらしく、じっとしてるかと思えばすぐにフラフラしだすのでほっておくことにした。
座るセナの前に立ち吊り革を掴んで揺られていると、部活の疲れからかゆるゆるとした眠気がヒル魔を襲う。空腹が邪魔をして睡魔に負けることはないが、遠巻きに感じる視線がうっとうしくて、曲げた肘に軽く体重をかけ目を閉じた。
しばらくすると何か膝よりやや上辺りに当たった感触がした。
前にはセナしかいない状態で何だと目を開くと、固まるしかない図が飛び込んできた。 『………なんで糞チビが俺の股間に顔埋めてんだ?』
記憶と妄想が猛スピードでヒル魔の脳裡を駆け抜ける。
だが、当たり前だが違った。
セナが膝に乗せた問題集を前屈に近い体勢で見ている。ヒル魔の肩にかけた学生鞄は前にまわり、問題の辺りを視界から隠すようにヒル魔とセナの間にぶら下がっていた。ヒル魔はそれを真上から見て勘違いしたのだ。腿に当たったのはセナの問題集だった。
電車で空いていた座席へセナを座らせた。遠慮するのを押し込むように座らせたのは、問題集に両手を塞がれた状態ではすぐに倒れると思ったから。本当にそれだけだったんだ。むしろ感謝されてもいいくらいだろう。なのに。 『なんなんだ、この生殺しは…』
超健康過ぎる高校男子のヒル魔は、かなりヤバイことになっている。自室や部室ならなんの問題もないが(?)、あいにく公共の電車内。 『こんなトコに頭突っ込んだテメーが悪いんだからな』
お持ち帰り決定をセナのせいにすると、小早川家への外泊理由を考えはじめるヒル魔だった。
腰が疲れて顔を上げたセナはいたく上機嫌なヒル魔を見て不思議に思ったが、その後のさらなる腰の痛みのあんまりな理由に「もう電車でヒル魔さんの前で座らない」と誓ったとか。
Fin.
2008.10.18
|