「ある意味、サマーバケーション?」 
       
      
        
          
             
             
              並盛中のグランドには汗を流す運動部の姿があった。掛け声は元気だが、応接室の窓から眺めているだけのディーノの方が暑くなってくる。 
 夏休み中にも頑張る姿は好ましいが、休みなら休めばイイのにとも思う。 
「日本人は頑張りすぎだよなー」 
「頑張らないよりマシだよ」 
 頭の中で言ったつもりが、口からこぼれていたらしい。 
 大きな机に書類を広げて処理する人を振り返り見る。 
「でもこんなに暑いなか運動してると熱中症とかで倒れちまうぜ」 
「そうならないように指導教員がいるんだけど」 
「ん?あの一人日影で涼んでる奴?」 
 グランドに目を戻し見えた光景をディーノが告げると、後ろでガタンと音がした。近付く気配が隣に並び、ディーノが指差す先を見下ろす。 
 グランド上の部員達に疲れた様子はまだないが、指示する教員は見るからにダレている。 
 くるりと向きを変えた雲雀がドアへ進んだ。カチャリと開いた隙間から特徴のある髪型が見える。 
「草壁、グランドにいる指導教員、注意してきて」 
「分かりました」 
 お辞儀の動きで下がった髪が閉まるドアの向こうに消えていく。 
「恭弥は見に行かなねーの?」 
「何を」 
 執務机から持ってきたペットボトルを手にし、ソファーに座りなおした雲雀の横にディーノも座った。 
「指導が適切になればよし。再度注意の後も改善がなければ排除。以下の部活動は部長の判断に任せる。僕が見に行くほどのことじゃない」 
「そっかぁ、やっぱり恭弥は優しいなぁ」 
「………」 
 ディーノの感嘆の言葉に何かを言いかけた雲雀だったが、開いた口からは言葉の代わりにため息が零れる。眉を寄せた顔も可愛いらしくて、引き締めるそばからディーノの頬は緩んでしまう。 
「そういや今の時期はオボンって言うんだろ?取引先もほとんど休みでさ」 
 おかげでディーノは1日雲雀にベッタリできてオボン様様なのだが。 
「日本人はオボンに墓参りするって聞いたぜ。恭弥は行かねーの?行くなら一緒に行きたいな」 
 顔を傾け覗き込む。すっと細められた目元が綺麗で、何度見てもハッとさせられる。 
「あなたには関係ない」 
「じゃあさ、墓の場所教えて?」 
「プライベートだよ。教える訳ないだろ。第一、あなたが雲雀家の墓に参る意味が分からない」 
 墓参りの意味?もちろんあるに決まっている。 
「俺が恭弥の恋人です、よろしくってご先祖様に挨拶したいなーって」 
 言いながらディーノはさりげなく雲雀の肩に手を回す。引き寄せるためではなく、トンファーを警戒しての行動だったが、予想に反して雲雀の愛器は襲ってこない。 
 さっきより深くなった眉間のシワに、怒るより何を思ったのかとディーノは不安に襲われる。 
「恭弥?」 
「……それなら先祖より先に僕の親が先なんじゃないの」 
 ポツリとこぼされた声に耳を疑う。 
「さっきのは普通世間一般はという意味であって特に意味はないし、そもそもあなたが挨拶に来る理由がないから来なくていい、いやむしろ迷惑だから来ないで」 
 目を見開いたディーノに、雲雀は自分が何を口走ったのか気付いたらしく、珍しく早口で言葉をついだ。しかし目を潤ませ始めているディーノの耳には恥じらいの言い訳にしか聞こえない。 
「ちょっと、聞いてる?!」 
「聞いてるに決まってるだろ!」 
「ちょっ、馬鹿馬っ」 
 ガバーッとディーノに抱き着かれ、雲雀は身動きが取れなくなる。かろうじて動く手でバシバシ背中を叩くが、肘から先しかではたいしたダメージは与えられず。 
「放せっ、暑いっ」 
「やっぱスーツだよな〜、黒はマズイかな〜、でも白だと軽い奴だと思われそうだし〜」 
 ディーノが真剣に、だが嬉しそうに悩んでいると、拘束されたままの雲雀からイライラした口調のセリフが飛び出した。 
「服を変えたってあなたが変わる訳じゃないだろ」 
「っっっ、恭弥!」 
「放してったら!暑苦しいよっ」 
「だってこれが抱き着かずにいられるかよっ」 
 雲雀としては目にやかましいキラッキラは消えるはずがないから、ディーノが何を着たところで挨拶などにはむかない見た目だと言ったつもりだったのだ。だから感激の面持ちで抱き着かれる意味が分からない。 
「そうだよな、どんな格好したって俺は俺だもんな。恭弥がそんなふうに俺を見てくれてるなんて嬉しいぜ」 
「そんなこと言ってない!あっ、ちょっと!」 
 重心がブレる感覚と視界の変化に、雲雀は自分がディーノの肩辺りに持ち上げられた事を知った。 
「下ろせっ」 
「ロマー、ドア開けてくれ」 
「どうした、ボス」 
 呼ばれてドアから入ったキャバッローネ幹部は何事かと軽く目をみはる。 
「車回せ。ちょっと行くとこできた」 
「そのままでか?」 
「このままで」 
 このままとは、満面の笑みのディーノに抱え上げられた雲雀が抜け出そうとして果たせずもがき続ける状態でということだ。 
 他の人間が見たら拉致と思われても仕方ない姿だったが、ディーノの腹心の部下はそんな小さなことは気にしなかった。 
「了解」 
「ちょっと、この馬鹿なんとかしてっ」 
 足も腕もがっちり拘束され、雲雀は体を捻るくらいしかできない。なんとか顔をドアへ向けて叫ぶが、携帯から指示を出していた眼鏡の返事はつれなかった。 
「ま、頑張れ坊主」 
「待ちなよ!」 
「さー行くぞ」 
「どこへ!」 
 先程からの流れで雲雀にも予想はつく。つくが信じたくない。 
「雲雀家の墓参りに決まってんだろ」 
 嫌な予想通りの答えとともに歩きだしたディーノの足を止めるべく雲雀が暴れるも、努力虚しくドアの枠が頭上を通り過ぎる。 
 ドア横で惑う草壁を眼鏡がなだめているのが見えた。なんと言ったのか、草壁は一礼すると、応接室に鍵をかけ下がっていった。 
「親御さんへの挨拶はまた日を改めて伺うから、今日はご先祖様のトコ行こうな」 
「行かなくていい!」 
「次の来日予定早めるからさ」 
「来なくていい!」 
 雲雀の懸命な抵抗もディーノの歩みを止められない。恥じらいの言葉にしか聞こえない雲雀の叫びはディーノの幸福感を増すだけだ。 
「あ、恭弥ん家行くときは羽織り袴にするか!」 
「………この馬鹿馬っっっ」 
 
 
 その後、風紀の取り締まりが強化され、その全てで苛烈にトンファーを振るう委員長の姿が見られた。 
             しかし夏休みも終盤となっていたこともあり、ダレた連中を一掃するための強化だろうというのが並盛町の住人の一致した認識であったため、誰も不審に思う者はいなかったという。 
 
             
             
             
             
             
             
             
                                    Fin. 
             
                                 2010. 8.25 
             
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      雲雀家のお墓が雲雀邸の横とかにあったりしたら 
      「ご両親にも挨拶しろってことか!」って 
      ボスなら言い出しそうだなー(笑) 
       
      まぁそんな事態に雲雀たんが大人しくしてるとも 
      思えませんが(笑) 
       
       
       
        
       
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