このお話は「死にネタ」です!! 
       
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      「In the warmth」 
       
      
        
          
             
             
             
             夏休みを目の前にしたある日。厳重に梱包された郵便が届いた。送り主を見て鼓動がはねた。 
             どうしてこの住所が分かったのか? 
             そんな疑問が頭の中を駆け巡るが、それは別の事から目を逸らしたいが為の逃避でしかなかった。 
             大きくは無いが小さくも無い、手の中のモノ。 
             心当たりはひとつだけ。 
             そしてそれは、確かに自分が渡した携帯電話だった。 
             
             親の海外赴任についていくのだと、困ったように申し訳なさそうに、それでも笑ってアイツは言った。 
             2年に進級し、たくさんの入部希望の下級生に囲まれていた時も、困ったように、でも嬉しそうに笑っていた。たまに顔を出す3年の俺らにいつでも満面の笑顔で挨拶してきた。 
             春大会を終え、秋に向けて本格的なトレーニングを始めようとした矢先の発言だった。 
            「みんな、これからなのに、ゴメンね」 
             同学年の仲間や下級生に向かって、本当にすまないとうなだれていた。周りはアイツ1人だけでも日本に残れるような方法は無いのかと色々と提案してきたし、下級生にいたっては泣きながら留まってくれと懇願していたヤツもいた。 
             チームの戦力が落ちるとか、そんな理由もあったかもしれないが、それだけではない。一緒にフィールドを駆けたいと誰もが望んでいた。 
             アイツはそれだけのヒーローになっていたのだ。 
             しかしアイツはそれでも残るとは言わなかった。 
            「母さんがね、1人残すのは不安だって言うんだ。確かに僕、頼りないしね。それに誰も知らない所に行くって事に一番不安なのは母さんだと思うから一緒にいてあげたいんだ」 
             親だって子離れするんだから、それが今だっていいじゃないかと言いつのった連中もいたが、やっぱり首を縦に振ろうとはしない。 
            「いままで親孝行らしいことって何もしてこなかったし。それにアメリカなら僕にとって全然知らない場所じゃないから」 
             確かにデスマーチで渡米はしたが、アメリカは広い。 
             それに父親の赴任先は結構な田舎で、都心に行くにもちょっとした旅行並だというらしい。そんな場所ではアメフトを続けるのにも支障が出るんじゃないか?そんな問いかけにも 
            「本場アメリカだよ?どこでだってやれるって」 
             きっととか、多分とか、続けなくなった辺りは成長したなとぼんやりと思った。 
             どうやってもその意志を変えられそうにないと分かると、周りの視線は自分に集まりだした。 
             お願いだからアイツを止めてくれと訴える視線が突き刺さってくる。 
             最初に向けたきりだったアイツの顔が俺のほうを向いた。 
            「決めたんです」 
             目を逸らさずに、睨むでもなくただ見つめていた俺の目を見て言い切った。こんな表情を何度、目にしてきただろう。 
            「アメフト続ける気はあるんだな」 
            「約束は出来ませんけど、できる限りで」 
             揺らがない声音。こんなに強いヤツだったのかと知らされる。 
            「いつ帰ってくるんだ」 
            「それは・・・分かりません」 
             言いよどんだものの、最後ははっきりと言い切った。 
            「帰れるようになったら、すぐにでも帰りたいです。ここに、泥門の仲間がいる、ここに」 
            「帰りが2年以上先立ったらその頃は皆バラバラだろ」 
             あくまでここは高校の部活動の場なのだ。進学にせよ就職にせよ、卒業すれば「泥門デビルバッツ」ではいられない。 
            「あー、そうですね。でも、やっぱり僕はここに帰りたいんです。それに卒業してても皆アメフトからは離れられないんじゃないですか?」 
            「生意気言うな」 
             いつの間にか目の前まで来ていたアイツにデコピンをお見舞いしたら、大げさにうめいて額を押さえやがった。 
             周りから非難の目線が浴びせられたが、そんなこた知ったこっちゃねーんだよ。 
            「テメーの好きにすればいい」 
             回りは驚いたような空気に包まれたが、アイツはそれを聞いて嬉しそうに笑った。 
            「ありがとうございます」 
             深々とお辞儀をしたアイツの頭を見下ろしていたが、いつまでたっても顔を上げようとしない。 
            「見られなくないような顔すんならマスクくらい用意しとけ」 
            「そんな用意周到なのはヒル魔さんくらいですよ」 
             やっと上げられた顔に涙は無かったが、耳と頬と鼻と目のふちは赤くなっていた。 
            「さて。コイツの決意も変わらねぇようだし。そうなりゃやる事はひとつだよな・・・ さっさと練習に向かいやがれーーー!!!」 
             持っていたマシンガンを足元に打ちまくると、俺たちのやりとりに割り込めず右往左往していた連中は慌ててグランドに向かって走りだした。 
             他の連中と一緒に走り出したアイツは途中で立ち止まると、振り返ると改めて深々と頭を下げた。そして笑顔になると皆の後を追っていった。 
             1ヵ月後。セナは日本を離れた。 
             
             衛星回線だから持っていろと渡した携帯。 
             多分通じないですよと困ったように手の中の機械を見つめたセナに、開けてみろと促す。 
            「あ、みんな・・・」 
             待ち受け画面には、ギュウギュウに押し込むように固まって写るメンバーの顔があった。メモリには仲間内で撮りまくった画像もあった。 
             学校でのお別れ会も、空港での見送りも寂しくなるからとセナが固辞した。 
             区切りを付けたい気持ちもあったようだが、結局はセナの気持ちを汲んで何も大層な事はしなかった。だが、携帯を渡すつもりだと知った途端に我先にとばかりに携帯を奪いあって写真を撮り始めた。 
            『いつでも一緒だ』 
             次々に現れる画面の顔は、そう言っているようだった。 
            「ヒル魔さんのはないんですか?」 
            「あ? 撮らせるわけねぇだろ」 
            「ははは、隙なさそうですよね」 
             パシャっと軽い音。 
            「隙あり」 
             ロクに手元も見ずに写した画像を嬉しそうに保存しているのを、事態が飲み込めずにぼーっと見ていた俺は超マヌケだっただろう。 
            「ヒル魔さーん、大丈夫ですかー? まさか写真に魂取られたとか言いませんよね・・・?」 
             顔を覗き込まれた瞬間、取り返そうと手は動いたが、逃げる足の方が速かった。 
            「テメー! さっさと今の消しやがれ!」 
            「ヤですよ! こんな貴重なの消せるわけないじゃないですか!」 
             俺の手の届く範囲ギリギリ外に立って、ニッコリと笑う。 
             本当に強かになりやがったよ、テメーは。 
            「ヒル魔さんの指導の賜物ですよ」 
             声に出して言ってないセリフに答えを返されて驚いた。 
            「ずっと一緒にいたんですよ。ヒル魔さんの思った事くらい分かるようになりますって」 
             ずっと一緒。そう、これからも続くと思っていた。練習も試合も、他愛のない穏やかな時間も・・・ 
             泣きそうな顔だった。 
            「一度しか言いません。何度も言いたくないから。でもヒル魔さんにだけは言っておきたくて」 
             でも笑っていた。 
            「ごめんなさい」 
             それきり口をつぐんでしまったセナの頭を抱えて胸に押し付けた。肩や手が震えている。 
            「見られたくないならマスク用意しろって言ったろ」 
            「そんなの用意するのってヒル魔さんくらいですって言ったじゃないですか」 
             またしばらく沈黙が続いたが、胸を押したセナの手はもう震えてはいなかった。 
            「・・・もう行きます」 
             落ち着いた目が見上げてくる。このまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られたが、ゆっくりと腕を引く。 
            「おう、行ってこい」 
             出国ゲートに向かう背中を見つめる。 
             急にその背中が立ち止まり、振り返ると走って戻ってきた。 
             俺は一瞬ありえない期待をした。 
             だが、胸に飛び込んできたセナの口から出た言葉は想像を超えていた。 
            「忘れてください」 
             今度こそ泣きそうだ顔だった。 
            「いなくなったら、僕の事なんて忘れちゃいますよね」 
             願いの言葉のようだった。 
            「忘れろと言われちゃ、忘れられねぇな・・・」 
            「・・・ヒル魔さんの天邪鬼」 
             今度こそあふれ出した涙を指でぬぐうと、目元にくちづけた。 
            「ヒ、ヒル魔さん、見られてますよっ」 
             泣いて縋る姿だって充分人目を引いてたんだが。 
            「国際ゲートなんだ。外人ばっかだし平気だろ」 
             そのまま顔にキスを降らせると、泣いた事とは違う理由で赤く染まっていった。 
             そろそろ本当に時間がなくなってきた頃に、やっと俺はセナを解放した。 
            「で、どっちなんだ? 忘れて欲しいのか、忘れて欲しくないのか」 
            「どっちでも」 
            「あ?」 
            「だって僕の言う事に素直なヒル魔さんておかしいですよ」 
            「なんだとテメー」 
            「わー!デコピンはもういいです! だからヒル魔さんはそのままでいいです。そのままでいてください」 
             吹っ切れたように明るく言って、セナは笑った。 
            「当たり前だ。そうそう変われるか」 
             それに一層笑みを深くして、つかんでいた俺の袖から手を放した。 
            「それじゃ、行きます」 
            「あぁ」 
             さっきと同じやりとり。でも表情は全然違った。 
             そして、すばやく俺の唇にかすめるようなキスをした。 
             驚いて見下ろした俺に 
            「アメリカじゃキスは挨拶なんでしょ?」 
             といってイタズラっぽく笑った。 
             手を振ってから前を向いた背中は、もう振り返らなかった。 
             
             
             
             あれから携帯は1度だけ鳴った。しかし、ワンコールで切れた電話は、すぐにかけなおしてももう繋がらなかった。 
             
             
             
             夏休みを利用して渡米しようと計画していた矢先に届いた携帯。微かに独特な匂いをさせる携帯にますます胸のざわつきが大きくなっていく。 
             しかも送り主はセナではなく、セナの父親だった。 
             それに発送先はアメリカではなく日本。 
             そこに何があったのかと調べようとした時、同包されていた手紙にやっと気付いた。 
             セナに似ているが、もう少し丁寧な文字だった。 
             裏の署名は『小早川秀馬』。 
             封を切って、手紙に目を通す。 
             そこには知らされていなかった色々な事が書かれていた。 
              
             読み終わると手紙を放りだし、自分の携帯を手に取る。 
             登録からセナの番号を消去し、立ち上げたPCのメールソフトからもアドレスを消した。 
             自分のアメフトに関するデータからも「小早川瀬那」の項目を消していく。あの奇跡の足を持つ選手が再び現れるとは思えない。目標として示すには目指す物が高すぎて使えない。使えないデータなど残しておいても何の意味も無い。 
             自分の周りからセナに関することを次々と消していく。 
             他の連中にも知らせておこうかと思ったが、手紙に書かれていたことを思い出し、止めた。 
            『貴方にだけは知らせておいた方がいいと思ったので』 
             いつか事実が知られる日が来る。 
             それまで少しでも時間があったほうがいいだろう。 
             自分にしては優しい行動だと思いつつ、手や身体は勝手に動いていく。 
             全部消したと思った。 
             残っている物など何もない。 
             そう思った時、ふいに自分の中に残っている物があったのを感じた。  今更感じられるはずのないぬくもりがよみがえってくる。 
              身体を抱いた腕に。 
              頬に触れた手に。 
              かすめるようなキスを受けた、唇に。 
             感じるのはぬくもりなのに、体の中はどんどん冷たいモノで満たされていく。 
            『忘れてください』 
            『忘れないでください』 
             どちらも同じ強さで言われた言葉。 
             どちらもセナの本当だった。 
             知っていたら、手を放したりしなかった。 
             ・・・いや、最後はセナの好きなようにさせただろう。それをセナが望むなら。 
             そして彼は去っていった。笑顔のままで。 
            「忘れたくても忘れられねぇじゃねーか」 
             最後にあんな事をされては。 
             携帯を開いて電源を入れる。待ち受けはあの時のヒル魔だった。 
             たった1度だけ鳴った電話。1人の病室で何を思っていたのか。 
             辛かったか。寂しかったか。苦しかったか。 
             けれど最後は、知られる事なく消えていく事を選んだセナ。 
             手の中の携帯を握り締めて、自分の中で冷えたモノが固まっていくのを感じた。このカタマリは消えないのだろう、多分、一生。 
            『そのままのヒル魔さんでいてください』 
             自分が変わる事はないだろう。 
             ただ、消えないモノが出来ただけだ。 
             もっと別の分かれ方もあっただろうに。もしかしたら一番残酷な方法かもしれないなと思わず苦笑いが漏れた。 
             
            「優しいようでイジワルだよ、テメーは」 
             
             
             
                                    Fin. 
             
                                 2006.11.5 
             
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      あああ。何故思いついたのがこんなネタだったのか・・・ 
      聴いてた歌そのまんまなんですが。 
      いつか「私には書けないよ」と言ったような気が・・・ 
       
       
       
       
       
        
       
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