Bitter Sweet





「あげます!」
「いらねー!」
「甘くないんだから、貰ってくれてもいいじゃないですか!」
「甘くなくてもチョコなんざ食べねーっつってんだ!」
 言い争う二人の間にあるのは、セナの手に握られたチョコレート。
 バレンタインにビターチョコを受け取ってもらえなかったセナがリベンジをかけて用意したのだ。「大人の」とうたうだけあってとても苦いと評判の品で、味見したセナはあまりの苦さに涙まで浮かべてしまった。
 これならイケルと確信して部室で待つヒル魔の元へ走ったセナ。
 しかし、待っていたのは1ヶ月前と同じ反応で・・・
 「ホワイトデーなんだから受け取って下さい!!」
 「白だろうが黒だろうがいらねぇったらいらねぇ!!」
 受け取れ、受け取らないで始まった睨み合いから10数分。すでに論点ずれまくっていた。
 セナ本人は睨んでるつもりの目は潤みを帯びはじめヒル魔を揺さぶる。
 チョコと聞いて即座に断ったものの、セナが考えて考えて自分にと選んだ事実は嬉しくないはずがない。ここらで折れてやろうかと頭を過ぎるが、もうしばらくこのままでもいいかとも思った。セナの表情が可愛くて、無表情のまま見取れていたともいう。
 無言の睨み合いが更に続く事数分。
 そろそろ折れてやるかとヒル魔がタイミングを計り始めた時。
 ついにセナがキレた。
「・・・もういいです」
「ん?」
「もうヒル魔さんにもらってくれなんて言いませんから!他の人にあげてきます」
「なんだと?!」
 これは聞き捨てならない。
「仕方ねぇ。もらってやるから寄越せ」
「嫌々ならもらってくれなくて結構です」
 そっぽむいた顔も可愛いな、いやいや、んな事考えてる場合じゃねぇと内心焦りつつも、顔には微塵もあらわさないヒル魔。
 本人が気付いた様子はなかったが、結構な面子がセナを狙っているのだ(とヒル魔は思っている)。
 焦りつつも怒った顔しか出来ず時間だけが過ぎぎていく。
 セナが部室を出ようとしたらどう阻止するかと思案していたその時。
「嘘です」
ポツリとセナが呟いた。
「・・・何がだ」
「ヒル魔さん以外にチョコを渡したい人なんかいませんよ・・・」
 よく見ると、拗ねてそらされていた顔にほんのり赤みがさしている。
 潤んだままの瞳。恥じらいに染まったうなじ。
 ・・・正直、かなりキた(笑)。
「俺も悪かった」
 クセっ毛の頭に手を置いてくしゃくしゃとかき混ぜる。
 まさか謝罪の言葉が聞けるとは思ってなかったセナは、目を見開いてヒル魔を凝視した。
「無理しなくてもいいですよ?」
 ヒル魔が譲歩してくれたという事が、ゆっくりと、だがしっかりとセナの心で暖かさを増していく。知らずに浮かべる笑顔にヒル魔の独占欲が満たされた。
 しかしセナからのプレゼントとはいえ、やはり甘い物は遠慮したい。だが目の前で食べてやりたい気持ちもないわけではない。
 いい事を思いついたとばかりにヒル魔の眉が上がる。
「でもよ、ホントにコレ甘くねぇのかよ」
「少なくとも僕は甘いとは思いませんでしたけど」
 セナの手の中から取り上げた箱からビニールをはがし、1つ出して指で挟む。目の前にかざされた物を見つめながら、その味を思い出したようにセナの顔が歪んだ。
「お前の気持ちだから食べてやりたいけどよ」
「けど?」
「チョコってのがどーしてもひっかかるな。だから食べさせてくれ」
「はい?」
「口移しなら食べてやる」
チッ、チッ、チッ、ボンッ!!
 言葉が脳内に到達した瞬間、真っ赤に染まるセナ。
「く、く、く、口移しってっっっ」
「仕方ねぇだろ、俺の手はコレを口に入れたがらねぇんだからテメーが俺に食べさせろ」
 問答無用とばかりに包みから取り出したチョコをセナの口に銜えさせる。苦くて食べることも出来ず、かといってもちろん捨てることも出来ずに唸るセナを、早くしろとばかりに真顔でせっつくヒル魔。
「早くしねぇと溶けちまうぞ」
 舌の上に徐々に広がる苦味に、セナは意を決したように顔をヒル魔に近づけていく。
 チョコがヒル魔の唇に触れる寸前、溶けかけのチョコごと唇を奪われた。さっきよりも強く感じる苦味と、口内に感じるヒル魔の舌に息は上がり、涙もにじみ出す。
 縋り付く手に力が入らなくなってきた頃、セナの唇からこぼれるのは熱く甘いと息だけとなっていた。
「やっぱり甘いじゃねーか」
 満足気な様子で口端に残る銀糸を舐め取り、セナのすっかり上気した顔を覗き込む。
「うまかったぜ。ごちそーさん」




                                    Fin.


                             2007. 3.15




バレンタイン、書いてないのにホワイトデー。
しかも1日遅れ。
でも勢いのままアップ。
うちはいつもそんな感じ。