その窓の向こう側



 窓の向こうに広がる夜景はきらびやかとは言い難い。けど空気の冷たいこんな季節はそれなりにキラキラして見える。
「なんか面白いモンでも見えるのか?」
「うわっ」
 驚いて振り返ると、さっきまでキッチンにいたヒル魔さんがすぐ後ろに立ってた。
 ドキドキと忙しい僕の動悸など気にもかけてない様子のヒル魔さんは、僕の頭の上から窓の外に目をこらしている。
「ショボイ明かりと星しか見えねーな」
「ショボイって…」
 確かにごくごく普通のベッドタウンだから、こんなもんじゃないかな。
「で。糞チビは何見てたんだ」
「えっと、窓、を見てました」
 前に向いてた顔が見下ろしてきた。
「……目でバカにするの止めて下さい」
 ヒル魔さんにはポーズのつもりでも僕にはマジに見えて凹みそうなんですから。
「窓が曇らないなぁって思ってたんです」
「結露おこすような物件住めねーだろ」
 …僕の部屋は毎日曇ってるんだけど。ヒル魔さんちと比べるのが間違いなんだ、うん。
「でも窓が曇ってたら遊びませんでした?落書きとか」
「ふーん。テメーは何書いてた?」
「えー?なんだろう?その時思いついたままに書いてたような?」
「たいしたことは書いてなさそうだな」
「落書きに何を期待してるんですか…」
 確かにヒル魔さんが落書きなんかしたら即行消されそうだけど。物騒だけど面白そうな想像に笑ってしまう。
 見上げる先も笑顔だったが、窓に戻った眼差しは目の前とは別のものを見ていた。
 違うかもしれないけど、そうだったらいいなと思って聞いてみる。
「デスマーチ、思い出しますね」
 夜景や星空を見るとふと思い出す。トラックの荷台から見上げた満天の星。キラキラよりギラギラが似合ってたラスベガスの夜。
「また見たいか?」
 それは星空とも夜景ともとれる問いかけだけど、多分違う。
 あの国の空の下、僕たちが目差す緑のフィールドが広がる場所。
「見たい、じゃないです」
「…じゃあ何だよ」
 笑いを含んだ声が聞いてくる。答えなんて分かってるくせに。
「見に行きますよ、絶対」
「イイ答えだな、セナ」
 希望や憧れじゃなく、そこに行くという決意をにじませて。
 ふわりと後ろから抱きしめられる。包んでくる腕に手を添えた。
「一緒に見ましょうね」
 言葉は返ってこなかったけど、腕にこめられた力の強さがヒル魔さんの答えだと、僕は思った。






                                      2010.12.18 


フライングですが
誕生日おめでとう、セナ!
バースデー関係ない話でごめんね!
いつものことだよね