「願い事」




「いつまで手、合わせてんだ」
「わっ、ヒル魔さん?!いつの間に横にっ」
 俺がいるからってそんなに驚くこたぁねーだろ。
「テメーがウンウン唸ってる間に糞サル行っちまったぜ」
「置いてくなんてひどいよモン太・・・」
 本当は、待つ気だった糞サルを俺が追い払ったんだが。
「いくら声かけても無視してたのはテメーだろ」
「えっ、悪い事しちゃったな」
 いーや、この状況はけっして悪くねぇぞ。
「皆待ってるかなー」
「さあな」
 と言いつつ、さりげに誘導するのは奴らが行ったのと別の出口だ。
「ヒル魔さんは何をお願いしたんですか」
「世界平和」
「・・・え゛」
「神頼みなんざな、自分でできねーって事を押し付けんだろ」
「そ、それはちょっと違うんじゃ」
 困った顔も可愛いんだよなコイツは。
「だったらテメーは何を願ったんだよ」
「えっとですね・・・あ、あー・・・間違えた・・・」
 さっぱり分からん。
「日本語しゃべれ」
「僕、日本語しかしゃべれないですよ〜」
 照れるトコじゃねーだろ。
「だから何だよ」
「へ?」
 もう忘れてやがる!
「ね・が・い・ご・とだっつってんだよ」
「ひうまはん、いひゃいれふ〜」
 よく伸びる頬っぺただな。
「・・・言わなくちゃダメですか?」
 この見上げ目線が可愛いって分かってやってんのかコイツ!
「俺は教えたんだからテメーが言わねぇのは不公平だろ」
「そうですよね。えっと、『前を向いていられますように』」
 ・・・やっぱり分からん。
「最初は足が早くなりたいとかだったんですけど、どれも結局自分で頑張らないといけない事だって思えてきて、何をお願いしていいのか分かんなくなっちゃって」
「・・・」
 無言で先を促す。
「家族の健康とかが一番よかったんでしょうけど」
「悩んだ結果が『前を向いていられますように』?」
「今までも走ってましたけど、パシリとかだったから…ずっと逃げる為に走ってたんだって。けどアメフトを始めて、やっと僕は前を向いて走れるようになれたんです」
 どこか誇らしげな顔で語るセナ。
「だから走りっぱなしは無理でも、せめて後ろ向きにならないようにと思って。けどヒル魔さんの言葉を聞いたら、やっぱりこれも自分で頑張らないとダメだって分かったんです」
「欲張るなって事だな」
 そうですねとセナは恥ずかしそうに笑うのに、俺は全然笑えなかった。
「神頼みって難しいんですねー」
「適当でいいんだよ。どうせ気休めだし」
 足はどんどん人気のない方へ進んでいく。それにコイツは気付いているのだろうか。
「・・・悪魔頼みなら叶いますか?」
「・・・願い事によるな」
 うっすら染まっていた頬は今や真っ赤になって、伸ばした指から伝わる熱が俺まで熱くする。
「僕が真っ先に願おうと思ったのは、ヒル魔さんとずっと一緒にいたいって事なんですけど」
「どこに連れて行かれるか分からないぜ?」
 冷たい空気も、火照りだした身体を鎮めることは出来ない。
「一緒に進めるなら、どこでもいいです・・・」
 伸ばされた手をつかみ、腕の中へと閉じ込める。
「僕の願い事、叶いますか?」
 うっとりとした声音が耳に心地良く響く。
「そうだな・・・」
 叶えてやるさ。
 どこまでだって、連れてってやる。

 願う場所まで、一緒に。



                                     Fin.

                                   2007. 1. 1 



元旦更新できたよヒャッホゥ!!
最初っから2人きりで初詣行けばいいのにねぇ。
他のメンバー、ほったらかしですよ?
この後どこへ行ったのかは
皆様のご想像におまかせします(笑)