『 夢路より 』




 
 胸にぽっかりと穴が開いたような感覚を覚えながら意識が浮上する。
 うっすら目を開けても部屋はまだ薄闇に包まれている。まだ外は暗い時刻なのだなと思いセナは目を閉じた。
 また眠りに沈もうと丸くなる。さらした首筋に感じた冷たい空気にふるりとセナの肩は震えたが、すぐに温かくなった。
 再び目を開けると、隣で眠るヒル魔の横顔がぼんやりと浮かんで見える。緩やかな呼吸にあわせ規則正しく掛け布団が上下している。
 眠気にトロリとしたセナの眼差しが甘さに染まる。
 ヒル魔に起きた様子はないが、先程の温かさは確かにヒル魔がもたらしてくれたものだ。
 寒さに震えたセナの肩口まで引き上げられた掛け布団。セナの手は胸元で丸まっていたから、それができたのはヒル魔だけ。
 セナが動いたことで自分が寒くなったのかも知れない。けれど、布団を引き上げた手が確かにセナの肩を撫でていった。その感触が布団よりセナを温めてくれる。
 いつもピシリと立てられた金色の髪は頭の形に沿って流れ枕に広がり、キリリとした目は穏やかに伏せられている。
(こんなヒル魔さん、誰も見たことないよね)
 自分だけが見られるヒル魔の姿にどうしたって優越感を感じてしまう。
「……まだ夜明け前だろ」
 目は開けないながらもヒル魔の眉間にはシワが寄っている。じっとしていたつもりだが、ピッタリくっついている相手が動けば起きてしまっても無理はない。
「起こしちゃってすみません」
 練習の無い休日の朝だ。腹がすくまで寝ていたって誰にも文句は言われない。
 もう一度眠ろうと目を閉じると、目尻を温かい指にぬぐわれる。
「怖い夢でも見たか?」
 そうされて初めて自分の目尻が濡れていることに気づいた。
 こちらを向いたヒル魔がじっとセナを見ている。
「夢、は見たような…」
 目を開ける前はなんとなく覚えていたように思うが、今はもう思い出せない。ただ…。
「ひとりぼっちみたいな気分で目が覚めたんです」
 起き抜けに感じた胸の空洞は「寂しさ」そのものだった。
 でも、おそらく涙はその時のものではなく。
「ヒル魔さんがここにいるなぁって思ったらなんだかホッとしちゃって」
 胸の空洞に感じたじんわりとした温かさは涙まで誘っていたらしい。
「もう少し寝ろ」
 ヒル魔の言葉は素っ気ない。けれど、肩に回した腕で抱き込んでくれる。
 夢で感じた寂しさが消えていく。
 目を開けれは必ずヒル魔が側にいる。ここがセナのいる場所だ。


 もうひとりぼっちの夢は見ない気がした。




                                2015. 1. 21

                      Fin.




1月21日はヒルセナの日!
ヒルセナはスクロールバーいらずが多いこと・・・。