1 〜  寄りかかりたくなる背中


忘れ物を取りに来て、珍しい姿を見た。
ベンチにパソコン置いて作業するヒル魔さん。
いつもならルーレット台なのに。
「失礼します…」
一応小さく挨拶をする。
ドアもそろりそろりと開けた。
ドアに背を向けたヒル魔さんは振り向かない。
僕に気付いてないのかな?
「忘れ物ならソコに置いてある」 気付いてた。
カウンターに置かれた英語のノート。
やっぱり、今朝モン太に見せた時に落としたんだ。
「ありがとうございます」
ノートを手に取り、小走りにドアに急ぐ。
取っ手に伸ばしかけた手を止めてゆるりと振り返った。
「…戻らないと授業遅れるぞ」
「すぐに行きます。だから、少しだけ…」
チームの全て背おって気負いなく立つ人。
目の前には僕より広い背中。
ヒル魔さんがその背に乗せたモノはとても大きくて重い。
僕に、僕だけに構う時間などなくて当たり前。
だけど今はまだ、もう少し。
「もう少し、このままでいさせて下さい…」
白いシャツに頬を寄せた。
予鈴が鳴るまであと5分。



≫ 2 〜 すらりとした指
『君に触れたい 5題』  SCHALK.様より
H20.8.1〜H21.3.31 まで拍手に使用