忘れられない緋色



夕日なら何度も見てきた。
小学校からの帰り道。
中学校のグランドの片隅。
街中に消えていく朱い夕日は、明るかったりくすんでいたり。
『夕方なんだな』と思うくらい。
ヒル魔にとって特に目をひく対象ではなかった。
今までは。


「……うわぁ」
「………」
立ち止まり、そのまま動けなくなる。
沈みゆく夕日の大きさに。
夕日に染まる地平線に。
明るい地表から星が光り始めた天頂にグラデーションが広がる。
広大な荒野を西に走るデスマーチ。
走り始めた最初の夕方。
疲れてへたりこむセナに近付くと、閉じてると予想した目は大きく見はられていた。
「キレイですね…」
「………」
「僕らホントにアメリカにいるんですね…」
「今更なに言ってんだ」
「そうなんですけど」
俯せていた体を反転させて、セナが大の字に寝転ぶ。
「こんな広い空、見たことないです」
「そうか」
「…踏み出して良かった」
見下ろすと、見上げるセナと目があった。
「あの時、空港で踏み出さなきゃ、こんな空見られなかった」
「いいのか、そんなコト言って。こけたら置いてくぞ」
容赦しないと言われても、セナの口元は笑っていた。
「置いてかれちゃうんですか?それはヤダなぁ〜」
地平線にかかる夕日は、もう半分程が沈んでいた。
陽が沈むと夜が来るのはあっという間だ。
「おら起きろ、行くぞ」
「はーい」
ヨロヨロ起き上がるセナを待つ間、遥か遠くに目をやる。
「ヒル魔さん」
呼ばれて気付くと、横にセナが立っていた。
「これからスッゴク大変だって分かってます。ついて行けるかも正直不安だし」
そう言いながらもセナの顔に浮かんでいるのは柔らかい笑み。
下ろしていた手に触れた温かいモノを緩く握ると、ギュッと握り返された。
「頑張りたいんです。皆とアメフトやりたいから」
セナの一言一言に、手にしたものの大きさを感じる。
「こんな景色見れるなんて思った事もなかった。僕を連れて来てくれてありがとうございます」
握った手が熱い。
伝わる熱が体中を熱くしていく。
目頭に感じた熱を閉じ込めたくて目をつむった。
それでも瞼の裏には焼き付いた緋色。
手にした熱とこの緋色は忘れられないだろうなと、思った。




≫ 絶望に似た紺色 
『8Color』  SCHALK.様より
H21.4.1〜H22.4.9 まで拍手に使用