幸せの桃色



きっちり上まで留められたボタン。
ネクタイをキュッと締める。
「あれ?出かけるのヒル魔」
「あぁ、ちょっとな」
出掛けに見つかったが、栗田はどこへ行くなどの詮索はしない。
ヒル魔の格好が行き先を告げている。
「でも珍しいね」
「何が」
ココ、と栗田が自分の喉元を指す。
「前は開けてたよね?」
苦しくない?と聞かれて笑う。
「まあな。でも開けてっとウルセーから?」
『見せびらかしてーなー』
『……恥ずかしいから隠してクダサイ』
『恥ずかしいのは俺じゃね?』
『そんなコト、かけらも思ってないくせに…』
恥ずかしがるセナの頬は赤というより熟れた桃色。
鎖骨辺りについた赤いアトは、今は薄まり、それでもそれと分かるくらいには残っていた。
「ふーん、そうなんだ。そっちも似合ってるよ」
「たりめーだ」
誰がと聞かずニコリと笑う栗田の発言は他意があるような無いような。
ヒル魔もどちらに転ぼうがかまいはしないので、あっさりスルーした。
周り中に見せ付けて、アイツは俺のものだと言ってやりたい。
隠して隠して、誰にも見せずにとっておきたい。
どちらも魅力的な誘惑の天秤は、今のところ隠すほうに傾いている。
「行ってくる」
「頑張ってね〜」
久々の高揚感に熱くなっていくのが分かる。
同時に、別の熱を思い出す。
アメフトとは違う、内側から溶かされていく甘ったるい熱。
桃色に染まる頬。
薄まった桃色のアト。
明日はU・S・Aとの試合だというのに。
この蛭魔妖一の気を散らせるなんてとんでもねーヤツだよ。
あぁまったく。
もったいなくて見せらんねーな!





≫ 無機質な灰色 
『8Color』  SCHALK.様より
H21.4.1〜H22.4.9 まで拍手に使用