無機質な灰色



試合後のロッカールームなんてどこの運動部も一緒だ。
汗の匂いとざわつく空気。
だが違うものもある。
「んじゃヒル魔、俺ら帰るわ」
「約束のモンよろしく〜」
防具やユニフォームを脱いだ面々はあっさりと帰っていく。
片付けはするが手入れはしない。
当たり前だ。
借り出されて使っただけのモノを大切に扱う者などいない。
「ヒル魔〜負けちゃったね…」
「次に勝ちゃいいんだよ」
「そうだね、頑張らないとね」
負けた試合もデータはデータだ。
整理して使えるようにしておかなければならない。
次からの試合のために。
栗田が備品を片付けていくと、たった十数人でいっぱいになった部屋とは思えない程広く感じる。
壁のコンクリートがやけに冷たそうに目に映った。



「ヒル魔さん、ヒル魔さん!」
呼ばれ、一瞬意識が飛んでいたことを知る。
声の方に顔を向ければ、壁に張り付く1年生数人。
「……何やってんだテメーら」
呆れて問うても、彼らの表情は変わらなかった。
「冷たくって気持ちイーっすよ!」
「ホントだー気持ちイー…」
「フゴ〜」
「おい汚れるぞ」
「きったねーなーお前ら」
「バッカじゃねーの」
確かに綺麗な場所とは言い難い。
しかし、言う方も言われる方も、楽しそうな顔は変わらない。
試合の興奮がまだ残っている。
「浮かれるのもそのへんにしとけ。後で反省会するからな」
ヒル魔の言葉に慌てて着替え始める1年。
それを笑って見つめる2年。
あの時と同じ季節。
同じロッカールーム。
コンクリートの壁は冷たいまま。
なのに、あの時とは違う。


同じ場所に立ってやっと気付いた。
あの時、胸を軋ませたのは灰色の壁じゃなかったんだな、と。





≫ 存在を誇示する銀色 
『8Color』  SCHALK.様より
H21.4.1〜H22.4.9 まで拍手に使用