でも、確かにそこにある無色



「最初はな、風だと思った」
腕の中で寝息をたてる小さな頭。
寝返りにふわふわ揺れる髪をつまむ。
「風の緑が制服の色だと気付いた時は『ラッキー』程度だったっつったら怒るか?」
つまんだ髪を軽く引っ張る。
「うぅ〜ん」
起こしたかと覗くと、寄せた眉間のシワをほどいてフニャリと笑った。
隙間を埋めるように擦り寄り、ピタリとくっつく。
こうして自分の腕の中で丸まるセナは小さくて柔らかくて温かい生き物で、その様子からフィールドの姿を想像するのは難しい。
たがヒル魔が見つけた緑の風は、赤い風になっていった。
ハッタリではない、本物の赤い悪魔『アイシールド21』。
そしてついに赤い風から光に変わり。
吹き抜ける風。
感じるが、つかめない。
目に見えないが、確かにそこに。
鋭すぎて手を伸ばすのもためらわれるソレ。
フィールドでのセナは、まさに『風』だった。
ゴソリと茶色が動く。
ぼんやりした目がヒル魔に向けられた。
「…眠れないんですか?」
「いいや、もう寝る。テメーも寝ろ」
「はぁい……」
あくびとも返事ともつかない声を出して、再びセナは目をつむった。
穏やかな呼吸のリズムを胸を通して伝わってくる。
ヒル魔にとって『アイシールド21』は『風』で、『小早川瀬那』は『温もり』だ。
どちらも目に写らないが感じられるモノ。

『手放さない』し、『手放せない』。
計画にはなかったが、こんな予想外も悪くない。
ヒル魔も眠るためシーツを肩まで引き上げ、温もりを抱きしめた。
夜明けはまだ遠い。





≫ 忘れられない緋色  
『8Color』  SCHALK.様より
H21.4.1〜H22.4.9 まで拍手に使用